米USTR、海事・物流・造船分野の対中輸入制限の請願書受理、45日以内に調査実施を判断

(米国、中国)

ニューヨーク発

2024年03月13日

米国通商代表部(USTR)は3月12日、中国の海事・物流・造船分野での行為・政策・慣行に対する、1974年通商法301条に基づく措置の請願書を受理したと発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。

1974年通商法301条は、外国の通商慣行が貿易協定に違反している場合や、不合理・差別的で米国の商業に負担または制限を与えている場合に、大統領の指示に従ってUSTRに追加関税などの輸入制限措置を発動する権限を認めている。措置発動に先立って、USTRは事実確認の調査を行い、調査報告書を作成する。調査の結果、米国の商業に負担または制限を与えていると判断される場合に、措置を発動する。301条に基づく輸入制限措置の直近の発動事例は、トランプ前政権下の2018年に発動した中国原産品に対する追加関税措置だ。USTRは2018年7月以降、当時の対中輸入額の3分の2に当たる幅広い品目に対して、最大25%の追加関税を賦課した。USTRは調査報告書で、中国の技術移転や知的財産、イノベーションに関連する慣行などが差別的で、米国の商業に負担または制限を与えているとした上で、これらに対抗し改善を促すために追加関税を賦課するとしていた(注)。

請願書PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を提出したのは、全米鉄鋼労働組合(USW)、国際機械工・航空宇宙労働組合(IAM)、国際ボイラーメーカー・鉄船建造・鍛冶・ヘルパー労働組合(IBB)、国際電気工労働組合(IBEW)、米国労働総同盟・産業別組合会議(AFL-CIO)海事貿易部(MTD)の5組合だ。組合は126ページに及ぶ請願書の中で、米国の造船や港湾産業は中国の不公正、差別的、非市場的な政策と貿易慣行による損害を受けてきたとして、USTRと大統領に適切な行動を取るよう要請している。

なお、連邦議会下院の「米国と中国共産党間の戦略的競争に関する特別委員会(中国特別委員会)」は3月8日、中国の港湾荷役機械大手の上海振華重工(ZPMC)が中国政府の大規模な補助金を受けて、米国港湾の契約入札で極端に低い価格を提示し、市場で支配的な地位を得ていると不公正な貿易慣行を指摘していた(2024年3月12日記事参照)。米国国土安全保障省(DHS)所管の沿岸警備隊(USCG)も、米国の港湾クレーンの約8割は中国製だとして、セキュリティー上の懸念を指摘していたほか、バイデン政権も国内の港湾のサイバーセキュリティー強化に動いており、今後5年間で200億ドル以上を投資し、港湾用クレーンの国内製造能力を信頼できるパートナーと構築していくことなどを発表している(2024年2月22日記事参照)。

USTRのキャサリン・タイ代表は請願書の受理に併せた声明で「われわれは、中国が鉄鋼、アルミニウム、太陽電池、バッテリー、重要鉱物などの複数の分野で依存関係や脆弱(ぜいじゃく)性を生み出し、米国の労働者や企業に損害を与え、われわれのサプライチェーンに現実的なリスクをもたらしていることを目の当たりにしてきた」「この請願書の精査に前向きに取り組んでいく」と述べた。

今後、USTRは請願書を受理した日から45日以内に301条に基づく調査を行うか否かを決定する。

(注)トランプ前政権下の301条関税の発動経緯や動向については、2024年1月18日付地域・分析レポート参照

(葛西泰介)

(米国、中国)

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