欧州委の研究機関、水素モビリティー導入加速に向け提言

(EU)

ブリュッセル発

2024年03月15日

欧州委員会の共同研究センター(JRC)は3月6日、水素関連技術の研究開発と実用化を支援する官民連携「クリーン水素パートナーシップ」(注)の水素モビリティー実証事業を検証した報告書を発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

同実証事業はEU自動車産業での燃料電池技術の導入加速と、水素モビリティー活用による温室効果ガス(GHG)排出削減を目的に、2005~2023年の間、燃料電池自動車(FCEV)約1,300台と燃料電池バス(FCEB)約400台を投入して実施した。水素モビリティーの技術実証にとどまらず、欧州全域での水素充填(じゅうてん)ネットワークの基盤形成や、性能向上に向けたデータ蓄積といった成果があった。一方で、運用コストや技術開発の面で、バッテリー式電気自動車(BEV)と厳しい競争になるほか、2022年のエネルギー価格高騰による水素製造コストの上昇や、部品供給網の脆弱(ぜいじゃく)性を課題として挙げた。また、大型車部門を中心に水素を活用した脱炭素化の推進に向け、次の提言を行った。

  • 水素モビリティーに対する補助金交付や税制上の優遇措置など、長期的な財政支援の実施。
  • 部品メーカーに対し、投資を奨励し、スペア部品の生産や十分な在庫確保を促し、供給網を強化する。
  • 燃料電池の劣化の測定や報告に関する方法論の確立、より正確な性能評価や技術改良に向けた包括的なデータ共有を奨励し、標準化や関連データの透明性確保に取り組む。
  • 燃料電池の性能向上に向けた研究開発や製造コスト削減のための投資を継続する。水素充填ネットワークをさらに拡大し、特にバス、トラックについては、水素の製造、貯蔵、供給などパッケージ化されたインフラを発展させる。
  • 水素モビリティーの環境面の利点に関する普及啓発や、公共交通部門などでの導入拡大、水素バレー(水素産業集積地)の整備を通じ、市場を拡大させる。
  • EU域外の水素モビリティー先進国・地域と普及促進に向け連携する。
  • 西欧諸国と比較してFCEVやFCEBの普及が遅れる東欧諸国で、水素モビリティーとインフラ整備関連政策を進める。
  • 水素モビリティー事業の影響を分析し、必要な戦略を策定するため、確実なモニタリングや評価を続ける。

(注)「クリーン水素パートナーシップ」については、2023年6月9日付地域・分析レポートの表2参照。

(滝澤祥子)

(EU)

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