EU理事会、人権・環境デューディリジェンス法の妥協案を承認、対象企業を大幅減
(EU)
ブリュッセル発
2024年03月21日
EU理事会(閣僚理事会)は3月15日、企業活動による人権や環境への悪影響を予防・是正する義務を企業に課す企業持続可能性デューディリジェンス指令案の最終的な妥協案を承認した。妥協案は指令案の対象企業の基準を大幅に引き上げるもので、現地報道では、これにより対象企業数が政治合意案と比べ3分の1程度になるとしている。
同指令案を巡っては、2023年12月のEU理事会と欧州議会による政治合意に基づき(2023年12月19日記事参照)、正式な採択が見込まれていた。しかし、産業界の根強い反発により一部の加盟国が政治合意後に反対に回ったことで、EU理事会は、指令案の採択に必要な多数派の形成に失敗(2024年3月5日記事参照)。フランスなどが対象企業の範囲縮小を主張したことから、2024年上半期のEU理事会議長国ベルギーが、政治合意に基づく指令案を修正する妥協案のとりまとめを進めていた。政治合意後の条文修正という異例の要求に対して、欧州議会は当初強く反発していたが、欧州議会の解散が迫る中で欧州議会の法務委員会は3月19日、本妥協案を可決した。欧州議会選挙前最後となる4月の本会議で妥協案が採択されれば、EU理事会での採択を経て、指令案は成立する見込み。
妥協案では、指令案においてデューディリジェンス義務化の対象となる企業の基準が大幅に引き上げられた。政治合意案では、対象企業は、EU域内で設立された企業については、(1)年間純売上高の基準を1億5,000万ユーロ超(全世界での年間純売上高が対象)、かつ(2)平均従業員数の基準を500人超の企業と規定していたが、妥協案では(1)4億5,000万ユーロ超、かつ(2)1,000人超の企業に修正された。また、政治合意に含まれていた、人権・環境の観点からハイリスクと指定された特定分野の企業に関して、基準を引き下げる規定については削除された。このほか、EU域外で設立された企業についても同様に、(1)4億5,000万ユーロ超(EU域内での年間純売上高が対象)に引き上げられた。なお、域外企業に関しては当初より(2)は設定されていない。
また、義務化の適用開始時期についても、基準の引き上げに伴い修正された。EU企業、域外企業〔域外企業は(1)のみに基づく〕ともに原則として、(1)15億ユーロ超、かつ(2)5,000人超の場合に指令の施行3年後から、(1)9億ユーロ超、かつ(2)3,000人超の場合に施行4年後から、その他の対象企業は施行5年後から適用される。
(吉沼啓介)
(EU)
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