ラマポーザ大統領、ICJの判決を受けパレスチナ問題解決に期待

(南アフリカ共和国、イスラエル、パレスチナ、米国)

ヨハネスブルク発

2024年02月01日

南アフリカ共和国のシリル・ラマポーザ大統領は、1月26日にオランダ・ハーグの国際司法裁判所(ICJ)が示した裁定について(2024年1月29日記事参照)、南ア政府の訴えの正当性が証明されたとし、「民主主義国家として法の支配を尊重するイスラエルがICJの措置を順守することを期待する」と演説した。今回の裁判に当たり、ロナルド・ラモラ法務相は、国際法の専門家として国際的に著名な教授やスーダンのオマル・アル=バシル大統領の裁判に関わった弁護士など、国際紛争に強い専門家をそろえたと報道されている。南ア政府は今回の紛争が発生してから、一貫してイスラエルのガザ攻撃を非難しており 、南ア駐在のイスラエル大使への抗議や大使館の閉鎖(現時点で未実施)、イスラエルからの外交官召還などを決定してきた。

ラマポーザ大統領は26日の演説で「南アの出る幕ではないという人もいたが、差別を受け、国家が引き起こした暴力の苦しみを知っている私たちがやるべきことだ」と述べた。現与党のアフリカ民族会議(ANC)はアパルトヘイト体制への抵抗・解放運動に由来しており、人種抑圧を受け続けている人たちの闘いを支援し続けるという立場で一貫している。また、同大統領は「この判決が停戦に向けて(国際社会を)より一致団結させ、イスラエルとパレスチナが恒久的な独立国家として共存するための交渉が開始されることを願っている」とも述べた。

一方で、ここに至るまでの一連の南ア政府の対応には、政府関係者や専門家の間では米国との関係悪化について懸念する声も出ている。特に延長可否に向けて検討が進むアフリカ成長機会法(AGOA、注、2023年11月13日記事参照)の対象国から南アが外された場合、貿易面で大きな影響を受けることになるためだ。

ただ、外交政策に詳しい独立系公共政策シンクタンクの南ア国際問題研究所所長のエリザベス・シディロポロス氏は「イスラエルとの外交関係は南ア政府にとっては長年の懸案事項である」としていた(取材日:11月16日)。1970~1980年代にアパルトヘイト政権に協力的だったとされるイスラエルに対する嫌悪感は根強く、例えば、2017年にエルサレムをイスラエルの首都と認める米国の決定に対して、与党ANCは同年の党大会でイスラエル大使館を連絡事務所に格下げする決定をしたこともある(実行されていない)。しかし、同氏は「歴史的にANCとハマスは友好的な関係ではあったが、今回の衝突に関して南ア政府はハマスを支持はしていないという点には注意が必要だ」とも述べた。

(注)米国がアフリカのサブサハラ諸国の発展に関与するべく、2000年に成立させた法律で、条件を満たす国からの輸入に対して、無関税の特恵待遇を与えるもの。AGOA対象国と認められる条件としては、市場経済、法の支配、政治的な多元性、適正な法手続きの確立、米国の貿易・投資に対する障壁の撤廃、貧困削減、腐敗撲滅、人権保護に関する政策の実施などを設定している。

(堀内千浪)

(南アフリカ共和国、イスラエル、パレスチナ、米国)

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