EU、消費者の「修理する権利」を新たに導入する指令案で政治合意

(EU)

ブリュッセル発

2024年02月08日

EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会は2月2日、製造事業者などに製品の修理を義務付ける消費者の新たな権利「修理する権利」を導入する指令案に関して、暫定的な政治合意に達した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。指令案は、製品が故障した際、消費者が修理サービスの利用より買い替えを選ぶことが多い現状を改めるため、消費者の修理する権利とそれを実現するための施策を規定する。循環型経済行動計画に基づく政策パッケージ第3弾の一環として、欧州委員会が2023年3月に発表(2023年3月27日記事参照)したもので、両機関による正式採択後に施行される。指令は各加盟国による国内法化後に適用開始される。なお、今回の合意内容の詳細は公開されていない。

現行の物販販売指令外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますは2年間の法定保証期間における販売事業者の修理義務を規定するが、指令案は法定保証期間外であっても、消費者の要請に応じて自社製品を修理することを製造事業者に義務付ける。製造事業者がEU域外で設立された事業者の場合は域内の認定代理人、認定代理人がいない場合には輸入事業者、輸入事業者がいない場合には卸売業者が責任を負う。

対象製品は、現行のエコデザイン指令で修理可能性要件が規定されている、家庭用洗濯・乾燥機、調理家電、家庭用食洗器、家庭用冷蔵・冷凍庫、掃除機、オーディオ機器、テレビなどの電子ディスプレー、コンピュータ・コンピュータサーバー、携帯電話・タブレット機器、溶接器具など。適用範囲を大幅に拡大する改正エコデザイン規則案が政治合意していることから(2023年12月11日記事参照)、指令案の適用製品も将来的に拡大するとみられる。

今回の政治合意は、欧州委の提案から一部修正がされた。欧州委は、交換費用が修理費用と同等か上回る場合、保証期間中は製造事業者に修理を優先するよう義務付けることを提案。欧州議会はおおむね支持したが、政治合意では、EU理事会の主張どおり、消費者が修理と交換のどちらかを選択するという現行指令の制度が維持された。

一方で、欧州議会の立場を配慮し、消費者が製品の修理を選択した場合には、保証期間を12カ月間延長することで合意した。保証期間は、加盟国が国内法でさらに延長することも認められる。

製品の保証期間外にも、合理的な価格・期間で修理サービスを提供すること、修理に必要な部品を合理的な価格で修理事業者に提供することなどを製造事業者に義務付ける。製造事業者は、典型的な故障の修理価格を含む、修理サービスに関する情報を公表することも求められる。製造事業者は、契約条項やハードウエア・ソフトウエア技術の利用により修理を困難にすることや、独立した修理事業者による中古品などを使用した修理を妨げることも禁止される。

(吉沼啓介)

(EU)

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