米商工会議所、USTRのデジタル貿易交渉に関する調査結果発表、一部団体の影響指摘

(米国)

ニューヨーク発

2024年02月06日

米国商工会議所は1月31日、米国通商代表部(USTR)がインド太平洋経済枠組み(IPEF)やWTOでの交渉で、越境データフローなどを認めるデジタル貿易ルールへの支持を撤回したのは、一部の業界団体の主張に影響を受けているとする調査結果を発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。

米商工会議所は2023年12月に、USTRによるWTOの共同声明イニシアチブ(JSI)会合で、越境データフローなどへの支持撤回や(2023年10月30日記事参照)、その直後のIPEF閣僚会合でのデジタル貿易の協議先送りといった前例のない決定が何によって影響されたかを調査するため、情報自由法(FOIA)に基づき、USTRへの訪問者の記録、エリザベス・ウォレン上院議員(民主党、マサチューセッツ州)とそのスタッフとの連絡記録、特定の業界団体との連絡記録、米国連邦取引委員会(FTC)または司法省反トラスト局との会議や連絡記録など、5つの情報公開請求を行っていた。USTRはこのうち、訪問者記録とリシンク・トレード(Rethink Trade)、オープン・マーケット(Open Markets)、パブリック・シチズン(Public Citizen)の3団体との連絡記録を提出した(注1)。米商工会議所はこれら記録から、「当該団体がUSTR高官との特権的な関係を享受していることは一目瞭然だ」とし、こうした関係がUSTRのIPEFやWTO交渉での意思決定に影響を与えたとの見解を示した。3団体はいずれも、巨大IT企業による市場独占への反対を主要ミッションの1つにうたっている。米国内では、巨大IT企業に対する監視が強まっており(2023年9月28日記事参照)、ウォレン議員など左派を中心とする議員は規制強化を求めている(注2)。

一方で、インサイドUSトレード(2月1日)によると、上述の3団体は全て、米商工会議所の指摘は偽善的と批判しており、例えば、リシンク・トレードは、USTRに連絡したデジタル貿易ルールに関するレポートやアイディアはウェブサイト上で公開していると反論している。また、オープン・マーケットは、デジタル貿易などの「通商政策とサプライチェーンの安定性に焦点を当てたイベントで政府高官を招いて講演してもらったり、この課題に関するわれわれの調査や研究を評価したりしてもらうために会ったりしても、スキャンダルにはならない」と述べている。

デジタル貿易についてはこれまで、WTOや環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP)の交渉などを通じて、米国がルール形成を主導してきた。だが、現状は米国内で意見が真っ向から割れている。米商工会議所のほか、全米製造業協会(NAM)や全米小売業協会(NRF)などの業界団体や、連邦議会でも上院で通商を所管する財政委員会のロン・ワイデン委員長(民主党、オレゴン州)らは、デジタル貿易のルール形成に対する米国の関与の減退は中国を利することにつながるなどとして、米国が高水準のルール形成を主導する必要性を訴えている。IPEFについては、柱とよばれる4つの交渉分野のうち、デジタル貿易を含む柱1の貿易のみ、交渉が難航しており、妥結のめどが立っていないのが現状だ(2024年2月1日記事参照)。

(注1)米商工会議所の発表によると、USTRは未回答の要求に応えるためには時間が必要だとしている。

(注2)例えば、ウォレン議員は2023年5月に、巨大IT企業が「リボルビングドア(政府と民間企業とで人材が行き来する仕組み)」を悪用し、米政府のデジタル貿易に関するルール作成に関与しているとする「Big Tech's Big Con外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」とのレポートを公開している。

(赤平大寿)

(米国)

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