EU、公共投資進めつつ財政再建を目指す財政規律改革法案で政治合意

(EU)

ブリュッセル発

2024年02月21日

EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会は2月10日、EU財政規律枠組みの改革法案に関し、暫定的な政治合意に達したと発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。改革法案は、各加盟国の状況に応じ柔軟な対応を認めることで、欧州グリーン・ディールやデジタル化などへの投資や改革の推進と財政健全化の両立を目指すものだ。EUでは、新型コロナウイルス感染拡大やエネルギー危機対策への財政出動により、加盟国の政府債務残高が大幅に拡大。一方で、欧州委員会は世界金融危機時に緊縮財政を導入し経済成長を阻害した教訓から、段階的かつ現実的な方法での財政健全化が必要とし、2023年5月に法案を提案した(2023年5月2日記事参照)。法案は今後、両機関による正式な採択を経て施行する見込み。

今回の政治合意は、欧州委案の大枠を維持しつつ、ドイツなどの財政慎重派の加盟国と、フランスやイタリアなど積極財政派の加盟国との交渉を反映し、一部を修正した。法案の柱となるのは、欧州委が提案した各加盟国が策定する国別中期財政構造計画に基づく財政再建だ。同計画は、4年間の財政調整期間の財政目標、優先する投資・改革、財政再建策をまとめたものだ。

欧州委は、加盟国による同計画の策定に先立ち、債務残高がGDP比60%を超える、あるいは予算年次ごとの財政赤字がGDP比3%を超える加盟国に対し、債務残高を削減基調にするための指針として、加盟国ごとに「参考軌道」を提示する。具体的には、債務残高がGDP比90%を超える加盟国には債務残高の年間1%削減を、GDP比60~90%の加盟国には年間0.5%削減を求める。これは現行のGDP比60%を超える部分について年間5%の削減を求める債務残高削減基準に代わるものだ。欧州委は当初、同計画終了時の債務残高を同計画開始時より削減する緩やかな基準を提案していたが、財政慎重派が反発。より確実な削減に向け、具体的な数値目標を設定した。また、経済成長時に限定するものの、財政赤字がGDP比3%を超える加盟国にはGDP比1.5%水準に抑えることも求める。

加盟国は今後、参考軌道を考慮した上で、債務残高を削減基調にするための同計画を9月までに欧州委に提出。欧州委による評価とEU理事会の承認を経た上で、2025年から同計画を実施する見通し。

今回の政治合意では、加盟国による改革や投資を促進するための緩和策も認めた。まず、より段階的な財政再建策の実施に向け、同計画の財政調整期間を4年間から最長7年間に延長することが可能となる。延長条件は、グリーン・ディールやデジタル化などのEU優先事項に貢献する投資・改革の確約だ。また、財政赤字の算出で、EUとの共同出資事業への投資分を加盟国の歳出から除外することも認めた。これは積極財政派が求めていたもので、当初はEU優先事項に合致した投資分の除外を求めたが、最終的にはEUとの共同出資事業のみを除外することで合意した。

(吉沼啓介)

(EU)

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