米シリコンバレーで日本発スタートアップのピッチとネットワーキングイベント開催

日本のスタートアップ企業8社によるピッチとネットワーキングイベントが1月17日、米国シリコンバレーに本社を置く米国最大級のスタートアップアクセラレーター兼ベンチャーキャピタル（VC）のプラグアンドプレイで行われた（注1）。参加した企業は人工知能（AI）などのソフトウエアから、医療関係、金融系、断熱材など多岐にわたった。

ジェトロがヒアリングを行った企業の1つのエリサ（ERISA、本社：島根県松江市）は、脳のMRI画像を使用して、AI分析でより迅速で正確な認知症やうつ病を診断するサービスを提供する。今回のピッチやネットワーキングイベントに参加したことで、日本と米国の医療システムや市場の違いがより明らかになり、重要とされる医療保険会社との連携に必要な保険会社とのコネクションを得られたという。

同じく医療系のフライングセル（Flying Cell、本社：広島県広島市）は、体内にナノ粒子の鉄剤を含んだ間葉性幹細胞（注2）を注入し、磁場を用いて治療を要する箇所に細胞を誘導・集積させる技術を用いて膝軟骨細胞の再生を行い、変形性ひざ関節症の治療を早期かつ低コストで提供する。今回のイベント参加により、医療保険会社とのつながりを得られた成果があった一方で、アカデミック分野でのつながりが課題として残ったとのこと。

パームエックス・セラピューティックス（PURMX Therapeutics、本社：広島県広島市）は、がん細胞の老化を誘導する小分子RNAの核酸医薬を開発している。イベント参加により、ピッチでのアピールの方法を学べたことや、大手製薬会社とのコネクションができたことを成果として挙げた。

サーマリティカ（Thermalytica、本社：茨城県つくば市）はマイナス253度から1,300度まで対応できる高性能の断熱素材を開発している。アジア最大級のスタートアップピッチコンテストで優勝経験がある注目のスタートアップだ（2023年12月1日記事参照）。イベント参加により、米国市場への進出の足掛かりと資金調達の手掛かりがつかめたという。

コントロニム（contronym、本社：東京都品川区）はWeb3（注3）ハイキャリア特化型の人材マッチングサービスを提供している。既存のプラットフォームによる求人登録では、履歴書を偽造できる問題があったが、ブロックチェーン技術を使用することにより、信頼性を担保したことが特徴。シリコンバレーでピッチを行うことで、自社の人材情報の信頼性と技術の認知度を高め、もともとあった北米市場での存在感をますます高めることにつながった感触を得たとのことだった。

また、多くのスタートアップから、事業発展や、市場開拓、米国市場での課題についての学びがあったことや、さまざまな背景を持った参加者から有益な助言や提案を受けたとのコメントが聞かれた。

（注1）参加したスタートアップは、ジェトロ・広島県による「広島グローバルコネクション、シリコンバレープログラム」とジェトロ・茨城県による「茨城スタートアップ『ゴーグローバル』プログラム2023」で選定された企業。登壇した他の企業は次のとおり。

• リスター（RESTAR、本社：東京都港区）：日本と海外に向け、金融機関や不動産会社向けの投資マネジメントや分析を可能にするソフトウエアを開発している。
• セトラボ（Setolabo、本社：香川県高松市）：がんや遺伝子分野での予防的ヘルスケアやリサーチのための医療検査を提供している。
• ネイティブ（Native、本社：インド・デリー市）：インドで開発を進める統計学的な占いと「生きがい」コンセプトに基づいたマッチングアプリを提供している。リンク先はマンスリーピッチでの同社解説。

（注2）骨や軟骨のほか、血管や内臓組織、神経などにも分化することのできる細胞のこと。

（注3）一般に、電子メールとウェブサイトを中心とした一方向的な情報伝達が行われた「WEB1.0」、いわゆる「GAFAM」など大手テック企業が市場を席巻し、スマートフォンとSNSに特徴付けられる双方向的な情報発信が行われる「WEB2.0」に続く、分散型ブロックチェーン技術やトークンベース経済を用いた分散型ガバナンスによる次世代のインターネット社会の概念。

（松井美樹）