米エネルギー省、COP28で発表された施策のハイライトをとりまとめ

(米国)

ニューヨーク発

2023年12月15日

米国エネルギー省は12月8日、国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)において、米国が発表した施策のハイライトを公表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。施策は、(1)クリーンエネルギーへの移行を促進するための連携、(2)1.5度目標を達成可能な範囲に保つための多国間コミットメントの推進、(3)国内でネットゼロを達成するための投資とイノベーション、の3つから成り、各項目で具体的には以下のような内容が列挙されている。必ずしも新規の施策ばかりではないものの、原子力をはじめとするさまざまな分野での国際協力や、脱炭素化に向けた取り組みがはっきりしていなかった分野での計画策定などが盛り込まれており、米国の脱炭素化に向けた動きが一段と加速することが期待される。

(1)クリーンエネルギーへの移行を促進するための連携

エネルギー・アースショット・イニシアチブ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますの推進:革新的なクリーンエネルギーソリューションの開発、長期エネルギー貯蔵技術(カナダ)、水素関連技術(インド)など脱炭素化に必要な技術コストの削減、クリーンエネルギー市場の発展を図るエネルギー・アースショット・イニシアチブを推進する。

〇新興国におけるエネルギー変革の促進:ネット・ゼロ・ワールド・イニシアチブ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを通じてパートナー諸国(注1)におけるクリーンで安全なエネルギーシステムの構築に取り組む。

〇クリーンエネルギーによるアフリカの経済発展の推進:モーリタニアで再生可能エネルギーを用いた「グリーン鉄鋼」の生産などを促進。

〇エネルギー貯蔵技術の発展:オーストラリア、カナダ、欧州委員会とともに、系統蓄電池に関するイニシアチブ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを立ち上げるとともに、系統蓄電池の開発と導入の促進、技術コストの削減などを目指す。

〇原子力発電のキャパシティ拡大に向けた取り組み:安全・安心で信頼できる世界的な原子力発電のサプライチェーン外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを構築するべく、ロシア産ウランを使用しない濃縮ウラン生産能力を強化するための官民投資を促進する。このため日本、カナダ、フランス、英国と協力して42億ドルを投資。

〇核融合エネルギーの加速:核融合エネルギーに関する国際パートナーシップ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表し協力を呼びかけ。

〇メタン排出量削減に向けた協力:米国、カナダ、ノルウェー、カタール、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)を含むネットゼロ生産者フォーラムのメンバーで石油・ガス生産に伴うメタン排出量を削減するためのベストプラクティスをまとめたツールキット外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表。

〇天然ガスサプライチェーンにおける温室効果ガス排出量の情報面での改善:天然ガス輸出・輸入国グループと協力し、天然ガスの生産・加工・輸送などの間に発生するメタンガスや二酸化炭素(CO2)などの測定、監視、報告、検証の枠組み外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを開発することを発表。

〇鉄道部門の脱炭素化:カナダと協力し、鉄道の脱炭素化に向けた共同ビジョンを策定・実施するための「鉄道脱炭素化タスクフォース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」を発表。

(2)1.5度目標を達成可能な範囲に保つための多国間コミットメントの推進

〇原子力エネルギーの拡大:2050年までに世界の原子力発電容量を3倍にすることなどを発表(2023年12月6日記事参照)。

〇再生可能エネルギーの拡大とエネルギー効率の上昇:欧州やUAEと協力し、新たな石炭火力発電所の建設を中止するとともに、2030年までに世界の再生可能エネルギーを3倍にし、エネルギー効率を2倍にする。

〇クリーンな水素市場の促進:米国と30カ国以上の国の間で再生可能で低炭素な水素および水素デリバティブの認証スキームの相互承認を宣言。

〇炭素マネジメントの加速:ブラジル、カナダ、インドネシア、英国などと協力し、炭素の回収・利用・貯蔵とCO2の除去を推進する炭素マネジメントプロジェクト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを2030年までに年間ギガトン規模に拡大するという目標を推進する。

(3)国内でネットゼロを達成するための投資とイノベーション

〇米国の気候変動目標の進展:エネルギー省と環境保護庁は、インフレ削減法(IRA)とインフラ投資雇用法(IIJA)により、米国の温室効果ガスの純排出量を2030年までに2005年比で41%削減可能と試算。

〇建築部門の脱炭素化:地域社会への、公平性、手頃感と強靭(きょうじん)な利益を優先しつつ、2050年までに建物を脱炭素化するための青写真である国家建築戦略外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを近く公表する。また、住宅用ビルのコスト削減やクリーンエネルギー経済の恩恵が全てのコミュニティに行きわたるようにするための研究開発のブレークスルーを加速するべく、家庭用エネルギー・アースショット外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを立ち上げた。ビルディングアップグレード賞外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますとして、エネルギー効率改善や効率的な電化で建物をアップグレードするための取り組みを開発する45チームに2,200万ドルを超える賞金と技術支援を実施。

〇クリーン水素の推進:水素ハブを支援するため、信頼性と銀行が融資可能な需要側のプロジェクトに対し最大10億ドルを確保。また、2031年までにクリーン水素の製造コストを1キログラム当たり1ドルに削減する目標を支援するための技術評価外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを実施。

〇エネルギーレジリエンスの改善:プエルトリコにおいて、脆弱(ぜいじゃく)性の高い家庭など(注2)3万~4万戸向けに太陽光発電システムと蓄電池システムを設置する事業者を選定し、光熱費の削減や家庭のエネルギーレジリエンスの改善に取り組む。

〇海事部門の脱炭素化:エネルギー省、運輸省、住宅開発省、環境保護庁はあらゆる種類の船舶や運航プロファイルに対応した燃料・エネルギー・技術面での複数の脱炭素化に向けた経路の概要を説明する海洋脱炭素化行動計画を2024年に発表する。

(注1)アルゼンチン、チリ、エジプト、インドネシア、ナイジェリア、シンガポール、タイ、ウクライナ。

(注2)超低所得者世帯の割合が高く、頻繁かつ長期にわたる停電が発生する地域に住んでいるか、移動に電動車いすを使用したり人工透析器を使用したりしているなど障害を持つ家庭。

(加藤翔一)

(米国)

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