米下院の中国特別委、中国との経済関係に関する提言発表

(米国、中国)

ニューヨーク発

2023年12月15日

米国連邦議会下院の「米国と中国共産党間の戦略的競争に関する特別委員会(中国特別委員会)」は12月12日、中国との経済関係に関する政策提言をまとめた報告書を発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。報告書は同委員会がこれまで実施した公聴会などに基づいて作成され、共和党と民主党の超党派でまとめられた。同委員会は5月に新疆ウイグル自治区と台湾に関する提言をまとめていた(2023年5月30日記事参照)。今回の報告書では中国との経済・技術競争に焦点を当て、約150の提言を盛り込んだ。

中国特別委員会は報告書で、米国のこれまでの対中関与政策は失敗したと指摘し、「米国の国家安全保障、経済安全保障、価値観を米中関係の中核に据える新たな道を切り開かなければならない」と訴えた。具体的な戦略として、(1)中国との経済関係のリセット、(2)中国の軍事現代化と人権侵害を助長する米国の資本と技術の流出阻止、(3)技術リーダーシップへの投資と同盟国との協調による集団的な経済強靭(きょうじん)性の構築の3つの柱に沿って、議会が取るべき対応策を示した。

(1)では、中国がWTO加盟後に期待された経済改革を実行していないことを問題視し、中国の経済戦略への対抗策を列挙した。貿易面では、中国からの輸入向けに新たな関税率の区分を設けることで、中国の不公正な貿易慣行を阻止し、米国の国家・経済安全保障にとって重要な分野の対中輸入依存を減らす手段とするよう提案した(注)。こうした政策に対する中国の報復措置から国内産業を守るため、農産物などの輸出者の支援策も策定すべきとした。そのほか、市場歪曲(わいきょく)的な中国製品の流入に対する各種の貿易是正措置の執行強化や、国家安全保障上リスクのある中国企業の製品・サービスから米国市場を保護するための法整備を提言した。

(2)では、米国の投資家が意図せず、中国人民解放軍や人権侵害と関わりのある中国企業に投資していると警告し、米国の輸出管理などの対象企業や重要技術分野の中国企業への投資を幅広く制限するよう促した。また、中国の軍民融合戦略に米国の輸出管理は適応できていないとして、輸出管理を所管する商務省産業安全保障局(BIS)の予算拡充や意思決定プロセスの改善を要請した。外国からの投資が国家安全保障に与えるリスクを審査する対米外国投資委員会(CFIUS)の権限拡大の必要性も強調した。

(3)では、バイオ技術や量子技術などの基礎研究の支援拡充や、国家安全保障に関わる重要・新興技術への民間投資を促す税制優遇措置の創設を記した。中国への供給依存を優先的に解消すべき分野として重要鉱物と医薬品原薬を挙げ、これら品目の国内生産強化や友好国とのサプライチェーン構築を呼びかけた。また、同盟国との経済統合が経済の強靭性を高めると主張し、デジタル分野を含めて高い基準の貿易協定を追求することが必要とした。

中国特別委員会は立法権限を持たないため、これらの提言を実現するには、関連する常任委員会で具体的な法案を審議する必要がある。中国特別委員会のマイク・ギャラガー委員長(共和党、ウィスコンシン州)は、2024年11月の大統領選挙前に議会が主要な法案をまとめることに期待を示した(「ニューヨーク・タイムズ」紙電子版12月12日)。

(注)米国の関税体系は、恒久的正常貿易関係(PNTR)のステータス〔いわゆる最恵国(MFN)待遇〕を与えられた国や自由貿易協定(FTA)などに基づく特恵税率が適用される国向けの関税率(コラム1)と、コラム1に含まれない特定国向けの関税率(コラム2)に分かれている。米国は中国が2001年にWTOに加盟したことに伴い、同国にPNTRのステータスを与えた。中国特別委員会は報告書で「中国へのPNTR付与は、米国にとって期待された利益をもたらさず、米国議会が予期した中国の構造改革にもつながらなかった」との認識を示したが、提言の中でPNTRの撤回を明記しているわけではない。

(甲斐野裕之)

(米国、中国)

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