EUのデューディリジェンス指令案の政治合意にドイツ産業界は反発

(ドイツ、EU)

調査部欧州課

2023年12月21日

EU理事会(閣僚議会)と欧州議会が12月14日に、企業活動による人権や環境への悪影響を予防・是正する義務を特定の企業に課す企業持続可能性デューディリジェンス指令案に政治合意したことを受けて(2023年12月19日記事参照)、ドイツの主要経済団体は同日、一斉に反応した。

ドイツ産業連盟(BDI)は「妥協は欧州経済を脅かす」とする声明外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表。同指令案は「欧州経済の競争力、供給の安定性、多様性を脅かすもの」で、「法的に不確実な規制やこのような規制による罰則と民事上の損害賠償責任を負うリスクを理由に、企業は重要な第三国から撤退する可能性がある」とした。ドイツのサプライチェーン・デューディリジェンス法(2023年1月施行)でも、予見できなかった負の影響や煩雑な事務による負担が既に確認されているとし、同指令案に対して否定的な意見を示した。

ドイツ商工会議所連合会(DIHK)は「現実的でないだけでなく、バランスを欠いている」とする声明外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表。「グローバルなバリューチェーンの持続可能で責任ある企業活動の促進というゴールは共有している」ものの、同指令案により「企業は多大な法的不確実性、煩雑な事務、計算が困難なリスクに直面する」と、企業側に多くの負担がのしかかる問題を指摘した。

ドイツ機械工業連盟(VDMA)は「EU理事会は緊急ブレーキを引かなければならない」とする声明外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表、同指令案の正式採択を止めるようEU理事会に求めた。今回の政治合意でEUは「欧州の産業の国際競争力にとどめを刺すもの」と批判した。同指令案はドイツのデューディリジェンス法を大幅に超える規制を定めており、特に企業に民事上の損害賠償責任があることに対して懸念を示した(注)。

なお、BDIのほか、DIHKとVDMAも、同指令案の影響で欧州の企業が第三国から撤退する可能性を指摘した。ドイツのデューディリジェンス法に関する調査では、ドイツの金属産業使用者団体を取りまとめるゲザムトメタル(Gesamtmetall)が2023年6月に公表した調査結果では、デューディリジェンス法が顧客やサプライヤーとの関係に及ぼした影響(複数回答可)について、15%の企業が「サプライヤーからの調達を中止または中止を計画」、14%が「環境・人権関連のガバナンスが弱い国からの撤退または撤退を計画」と回答した。人権・環境関連のデューディリジェンスの義務化が企業の調達やビジネスの立地に影響を及ぼしていることが明らかになっている(2023年6月20日記事参照)。

(注)ドイツのデューディリジェンス法(同法のジェトロ仮訳PDFファイル(550KB))では、第3条第3項で「本法に基づく義務の違反に対しては、民事責任を生じさせない」と、同法による民事上の損害賠償責任がないことを明確にしている。同項は連邦議会(下院)の審議での法案修正によって加えられた。

(二片すず)

(ドイツ、EU)

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