欧州委、動物輸送と犬猫のアニマルウェルフェアに関する規則案発表

(EU)

ブリュッセル発

2023年12月18日

欧州委員会は12月7日、アニマルウェルフェア(注1)分野の規制見直しの一環として、輸送中の動物保護に関する規則の改正案PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)犬や猫の福祉とトレーサビリティーに関する規則案PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。EUで犬や猫の福祉に特化した規制が提案されるのは初めて。アニマルウェルフェアについては、欧州グリーン・ディールの農業・食品産業分野の政策を示したFarm to Fork戦略(FTF戦略、2020年8月28日付地域・分析レポート参照)で、現行規制の評価と改正を行う方針を示していた。10月に発表された欧州委の世論調査では、EU市民回答者の84%が畜産業でアニマルウェルフェアの向上が必要と答えるなど、社会的要請の高まりも規制強化の背景にある。両規則案はEU理事会(閣僚理事会)と欧州議会で審議される。

輸送中の動物保護に関する規則の見直しは約20年ぶり。輸送時間の短縮や、輸送車両で最低限確保するスペースを動物の種類に合わせて拡大するなどを定める。また、輸送車両の現在地の特定や関連行政手続きでデジタル技術を積極的に活用し、規制の適切な執行や事業者の負担軽減を目指すとした。

犬や猫の福祉とトレーサビリティーに関する規則案は、繁殖施設、ペット販売事業者、シェルター運営事業者に対し、繁殖や飼育環境についての最低基準を設ける。違法な取引の抑止に向け、犬や猫にマイクロチップの装着を義務化して個体識別を徹底し、オンライン販売では販売事業者に犬や猫の登録情報の証明を義務付けることを提案した。

欧州委は同時に、欧州食品安全機関(EFSA)に毛皮生産に関わる家畜の福祉について、科学的見解を諮問することを発表。「欧州市民イニシアチブ(ECI)」(注2)を活用した毛皮生産が目的の畜産業とEU市場への毛皮製品の上市禁止を求めるキャンペーンへの対応で、2025年3月までにEFSA の答申を受け、2026年3月までに最終判断を示す。

環境政策との両立に向け、関係者間で「戦略的対話」開催へ

EUの農業分野では、規制強化の動きにやや後退がみられる。FTF戦略ではアニマルウェルフェアについて、2023年第4四半期(10~12月)をめどに抜本的に見直す方針だった。しかし、今回発表された畜産業に関する新たな規制案は動物輸送についてのみとなった。現地報道によると、欧州委内で規制対応コスト増による食品価格の上昇への懸念があったとされる。また、欧州議会は11月22日、2030年までに化学農薬の使用量を50%削減するとした規則案(2022年6月28日記事参照)を第一読会で事実上否決しており、今後、EU理事会が示す立場によって、欧州委は同規則案の再検討が必要となるかもしれない。

また、2024年1月から、EU農業の将来に関する戦略的対話が関係者間で始まる。欧州委のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長が9月の一般教書演説(2023年9月14日記事参照)で提案したもので、食料自給体制の強化や、環境政策と両立する農業生産の実現に意欲を示した。農業生産者側の期待も高く、高止まりするエネルギーや肥料の価格、気候変動や生産者への規制対応コスト増といった新たな課題にどのような対応が示されるのか注目される。

(注1)アニマルウェルフェアとは、国際獣疫事務局(OIE)が「動物がその生活している環境にうまく対応している態様」と定義し、生産性や安全性を向上しつつも、家畜の快適性に配慮した飼養を行うこと。

(注2)7カ国以上のEU加盟国で100万人以上の署名を集め、欧州委に立法提案することを認める制度。

(滝澤祥子)

(EU)

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