EU、次期排ガス規制案「Euro 7」に政治合意、内容は欧州委案から後退

(EU)

ブリュッセル発

2023年12月25日

EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会は12月18日、欧州委員会が2022年11月に発表した自動車からの大気汚染物質の新たな排出基準を定める規則案「Euro 7(ユーロ7)」(2022年11月11日記事参照)に関して、暫定的な政治合意に達したと発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。EUの排出ガス規制はこれまで、乗用車・小型商用車(バン)と大型車(トラック、バス)で別規則だったが、1つの規則に統合し、車種ごとの排出基準などを定めた。同時に、ブレーキやタイヤの摩耗による粉じんに伴う汚染物質(マイクロプラスチック)の排出や、車載バッテリーの耐久性に関する規制も盛り込んだ。今後、両機関による正式な採択を経て、施行される見込み。なお、現時点で今回合意した法文案は公開されていない。

排出関連で規制が強化されたのは粒子状物質(PM)の排出だ。欧州委案どおり、粒子数(PN)検出の粒径下限を現行の23ナノメートルから10ナノメートルに引き下げ、より細かい粒子レベルで規制する。大型車については、欧州委案どおり、新たに亜酸化窒素(N2O)などを規制対象に含める。また、試験条件は変更しないが、研究所および走行試験での排出基準を厳しくする。

ユーロ7から導入する規制関連では、ブレーキによるPM排出については、パワートレイン別に基準を設けるとした欧州議会案に沿って、バッテリー式電気自動車(BEV)は1キロメートル当たり3ミリグラム、内燃機関搭載車、ハイブリッド車や燃料電池車(FCV)は同7ミリグラムに上限値を設定。バッテリーの耐久性に関する最低性能要件については、欧州委案に沿って、新車の使用開始から5年または走行距離10万キロ時点で、電気自動車(EV)とハイブリッド車は初期の満充電容量の80%、バンは75%を維持すべきとした。

適用開始時期については、欧州委案では乗用車・バンは2025年7月1日、大型車は2027年7月1日としていたが、それぞれ施行から30カ月後、48カ月後と定め、リードタイム不足を訴えていた自動車業界に配慮した内容となった。

自動車業界からは早期の関連法令整備を求める声

欧州委はユーロ7でさらなる規制強化を目指したが、自動車業界や一部のEU加盟国などの反発があり、現行の乗用車・バンの排出基準や試験方法が維持されるなど、内容は欧州委案から後退した。環境団体からは不満の声が上がり、自動車関連団体でも反応に温度差があった。

欧州自動車工業会(ACEA)は12月18日、リードタイムの確保が考慮されたことを歓迎しつつも、規制順守に向け技術、資金面での課題が課されたと述べた。関連法令で細部を定めるとした項目も多く、合意内容を踏まえて細則の策定を速やかに進めるべきだとした(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。一方、欧州自動車部品工業会(CLEPA)は同日、欧州委案の多くが削除されたと指摘。ハイブリッド車とFCVのブレーキによる排出上限値の設定などを評価しつつも、より高い目標が技術、経済的にみても設定可能だったと述べた(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。欧州タイヤ・ゴム製造協会(ETRMA)は19日、合意内容は国際的なタイヤの摩耗に伴う排出基準や試験方法の策定の動きに沿ったものと歓迎。欧州のタイヤ業界は2024年に規制対応に向けた市場評価を実施するための投資を行い、国際基準とユーロ7への対応に向けた取り組みを続けるとした(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

(滝澤祥子)

(EU)

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