欧州産業連盟、欧州委の域外人材受け入れ促進の方針歓迎、背景に深刻な人手不足

(EU)

ブリュッセル発

2023年11月24日

ビジネスヨーロッパ(欧州産業連盟)は11月15日、欧州委員会が同日発表したEU域外からの人材確保を目指す政策パッケージ(2023年11月21日記事参照)を歓迎し、域内の雇用主と域外の求職者のマッチング支援をする「EU人材プール」は採用促進の「ゲームチェンジャーになる」と期待を示した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。また、求職者が母国などで取得した資格の認定手続きの簡略化に関する勧告についても、域外からだけでなく、既に域内に居住する人材の登用促進にも活用できると歓迎した。

同連盟も欧州委と同様に、高齢化や高い欠員率、域内労働市場の流動性の低さなどに起因する人手不足に強い危機感を持ち、2023年10月にはEUの人手・人材不足に関する報告書PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を発表した。報告書によると、2021年のEUの生産年齢人口は2012年比で約500万人少ない約2億6,400万人で、2100年までに約5,740万人減少すると推測される。構造的な雇用のミスマッチの解消と労働市場のニーズに合った労働者のスキル習得機会の拡充に取り組まなければ、企業が求める人材の確保がさらに困難になる可能性がある。

報告書は合計110の企業・雇用者団体(注)を対象に、現在の雇用環境、企業の採用・研修方針や内容、域外人材の受け入れなどについて分析した。調査に回答した企業・団体は技術・工学関連と顧客サービスを伴う職種を中心に、あらゆるスキルレベルで人材不足の深刻さを感じている。企業のデジタル化とグリーン化が進む中、労働者に最も望むスキルとして挙げられたのはデジタル(回答者の32%)とSTEM(科学、技術、工学、数学)分野(14%)の関連スキルだった。次に専門資格(34%)で、特に工学、化学、金融、食品、安全審査といった分野の専門的知識・技能を持つ人材を求めていた。

一方で、EUの雇用は現在、売り手優位の状況にあるため、全ての応募資格を満たしていなくとも採用し、入社後に自社で研修するなど、人材確保の取り組み方を変える企業も増えている。企業がデジタル化とグリーン化に必要な人材育成に向け、継続的な研修機会の提供や、研修に参加しやすい企業文化の醸成、従業員の意欲向上に努めていることも分かった。回答者の41%が職場での研修機会を提供しており、57%が従業員の参加率が高い、または非常に高いと答えた。

また、域外からの労働者受け入れを含め、労働市場の流動性を高めることについては、回答者の78%が現在や将来的な人材不足の解決策になるとした。このうち18%は現状では上記に該当しないが、環境が整えば域外労働者の受け入れについて前向きに検討すると回答した。このグループの回答からは今後について、ビザ関連など労使双方に必要な情報を提供する体制づくりや、就労先としてのEUの魅力向上、域外の高度人材の雇用促進に向けたEUまたは加盟国レベルでの法整備の必要性が挙げられた。求職者の側には就労を希望する国の言語能力や、職業上必要なスキルだけでなく就労先に溶け込む意欲が必要とも指摘された。

(注)金融、製造、観光など30以上の幅広い産業部門の企業93社と17の雇用者団体が調査に応じた。企業のうち約3分の1は従業員50人以下の企業。

(滝澤祥子)

(EU)

ビジネス短信 ce132544c682e36c