米FRB、政策金利の誘導目標を2会合連続で据え置き、長期債の利回り上昇が新たな考慮事項

(米国)

ニューヨーク発

2023年11月02日

米国連邦準備制度理事会(FRB)は10月31~11月1日に連邦公開市場委員会(FOMC)を開催し、政策金利のフェデラル・ファンド(FF)金利の誘導目標を現在の5.25~5.50%に据え置くと決定した(添付資料図参照)。FOMC前時点でのシカゴ・マーカンタイル取引所(CME)の調査では、市場関係者の98%が政策金利の据え置きを予想しており、今回の決定は市場の大勢の予想と一致する結果となった。据え置きの決定は参加者12人の全会一致だった。

発表された声明文PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)の前回との違いは以下の3点だ。経済は「第3四半期は強いペースで拡大している」とし、前回会合の声明文(2023年9月21日記事参照)から3会合連続で上方修正した。雇用の増加は「このところ年初よりは緩やかだが、依然として強い」として若干の上方修正となった。これに加えて、家計や企業の資金に係る状況に関して、従来から記載されている信用面での逼迫に、金融情勢の逼迫が新たに追加された。

最近の経済・雇用情勢について(添付資料表参照)、ジェローム・パウエル議長はFOMC後に行った記者会見PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)で、経済活動は強いペースで拡大しており、以前の予想をはるかに上回っているとし、消費支出に関する指標は急増したとする一方、金利上昇が住宅投資や企業の設備投資を圧迫していると述べた。

金融政策の決定に最も関連するのは、雇用と物価の指標だ。雇用について、パウエル議長は、(1)雇用者数は年初のペースを下回っているものの強いペース、(2)失業率(9月:3.8%)は依然として低い、(3)労働参加率は上昇、(4)賃金上昇はいくらか緩和の兆し、(5)求人数は減少、など個別の指標に触れながら、全体としては引き続き逼迫しているが、労働需要と供給のバランスは引き続き進んでいるとし、前回会合とほぼ同様の認識を示した。物価については、「2022年半ば以降緩やかになり、夏の統計は非常に良好だった」としつつも「インフレ率を持続的に(FRBが目標とする)2%にまで下げるプロセスには長い道のりがある。ただ、インフレ率の上昇にもかかわらず、長期的な期待インフレ率は安定している」と、前回会合から基本的なスタンスは維持しつつも若干の改善を示した。

今回、新たに声明文で追加された金融情勢については、「長期債の利回り上昇により、金融情勢はここ数カ月で急速に引き締まった」とした上で、「こうした変化は金融政策に影響を与える可能性があることから、注意深く観察する必要がある」と述べた。長期債の利回りに関しては、例えば10年債では、FRBが利上げを開始した2022年3月ごろに比べると3%程度上昇、特に2023年夏以降は1%程度の上昇と急速なスピードで上昇しており、約16年ぶりに5%をうかがう高水準となっている。住宅ローンなど比較的長期のローン利率はこうした長期債の利回りに影響されることから、FRBによる利上げと同様に経済への下押し圧力になる可能性が指摘されている。この点に関しては、記者からの「債券利回りの上昇は追加利上げの必要性をどの程度補うものとなっているか」との質問に答えるかたちで、金融政策決定に影響を与えるためには、借り入れコストが持続的に上昇する必要があるとした上で、借り入れコストの上昇は顕在化しているが、持続的に上昇して利上げを補うものになるかどうかはまだわからないとの認識が示されている(ロイター11月1日)。

金融政策の今後は、依然として両にらみの状態だ。想定よりも強い数値を示す経済・雇用状況などインフレ圧力につながり得るリスクがあることから、9月の見通しで示唆した、さらなる利上げの可能性を依然として排除できない。一方で、長期債利回りの上昇を含め経済の下押しリスクがFRBの想定以上に顕在化する可能性もあり、引き続きデータ次第の運営を迫られる状況が続きそうだ。

(加藤翔一)

(米国)

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