USMCAの紛争解決パネル、米カナダ間の乳製品紛争で米側主張を認める

(米国、カナダ)

ニューヨーク発

2022年01月06日

米国通商代表部(USTR)は1月4日、カナダ政府が乳製品輸入に設定している関税割当制度(TRQ)の運用が米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)に違反すると主張していた件で(2021年5月27日記事参照)、USMCAの紛争解決パネルが米国側の主張を認める裁定を行ったと発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。パネルによる裁定は2020年7月の同協定発効以来、初となる。

カナダはUSMCAの下、14種類の乳製品(注)にTRQを維持することが認められている。米国の主張は、カナダがTRQによる低税率での輸入枠の大部分(85~100%)を、米乳製品業者の競合であるカナダの乳製品加工業者のために確保していることがUSMCA違反になるとの点にあった。米国の乳製品関連の業界団体はカナダの措置について、実際には一定量以外の原料を積極的に輸入する意欲のないカナダ国内の加工業者にTRQを確保する一方、小売業者にはTRQを与えないことで、米国産品のカナダ市場へのアクセスを不当に阻害していると懸念していた。

パネルは、TRQの配分方法についてカナダ政府に裁量権があることを認めつつ、相当な部分のTRQを加工業者に排他的に確保していることは協定第3章付属書Aの第2条11項(b)の趣旨に照らして、協定違反と結論付けた。なお、米国側はカナダの措置が協定のその他の条項にも違反していると主張していたが、パネルは司法の効率性の観点などから、それらの審理は不要またはパネルに管轄権がないと判断している。

カナダのメアリー・エング国際貿易・輸出振興・中小企業・経済開発相とマリークロード・ビボー農務・農産食品相は、パネルがTRQの配分方法に関するカナダの裁量権を認めた点などをもって「カナダとその乳製品産業の主張を大いにくみ取ったパネルの報告書を喜ばしく思う」との声明外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを出している。一方で「カナダは国際条約の約束と義務を真剣に捉えている」とし、協定に従って45日以内(2月3日まで)に米国と解決策で合意する意思を示した。

USTRのキャサリン・タイ代表はパネルの裁定を受けて、「この歴史的勝利は米国の乳製品に対する不当な貿易障壁を撤廃し、米乳製品産業と労働者がUSMCAの恩恵を享受し、カナダの消費者に米国製品を届けることを助ける」との声明を出している。USTRによると、2021年1~10月の米国からカナダへの乳製品輸出は4億7,800万ドルに上り、国別の輸出先では第3位となっている。

(注)牛乳、クリーム、脱脂粉乳、バターおよびクリームパウダー、産業用チーズ、全種類のチーズ、粉乳、加糖練乳、ヨーグルトおよびバターミルク、粉状バターミルク、乳清、生乳成分で構成される製品、アイスクリームおよびアイスクリームミックス、その他乳製品。

(磯部真一)

(米国、カナダ)

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