オーストラリアのスタートアップ企業LAVO、水素貯蔵技術で日本企業などと連携

(オーストラリア、日本)

シドニー発

2023年10月26日

2020年に設立されたオーストラリアのスタートアップ企業のラボ(LAVO)は、ニューサウスウェールズ大学(UNSW)のスピンオフ企業で、独自の水素貯蔵技術(グリーン水素)を持つ企業だ。ジェトロは8月29日にラボのディレクター(アジア大洋州地域と政府関係担当)のアメール・ラソール氏に、水素事業(注1)について話を聞いた。

ラボは、温度や圧力によって水素を吸収・放出する性質を持つ金属の水素吸蔵合金を使って、安全かつ長期間にわたり水素を貯蔵する技術を持っている。さらに、この技術を活用して統合型のHESS(水素エネルギー貯蔵システム)を開発した。HESSの仕組みは、太陽光など再生可能エネルギーで発電した電力で電解槽に水から分離した水素を水素吸蔵合金タンクに貯蔵し、貯蔵した水素を取り出して燃料電池で発電する仕組みだ。水素を貯蔵しておき、電力が必要な時に発電すればよく、蓄電池と比べて自己放電がなく、長期間の貯蔵が可能だ。ラボは、世界初の家庭用水素貯蔵システムとなる家庭用定置型のHESSユニットも現地で既に販売している。家庭用以外にも、南アフリカ共和国やドイツで現地の通信企業と連携し、通信塔で消費される電力をディーゼルからHESSを使った水素による電力供給に置き換える実証事業を実施している。

写真 ラボの家庭用定置型水素貯蔵システム(ジェトロ撮影)

ラボの家庭用定置型水素貯蔵システム(ジェトロ撮影)

ラボは、日本企業や大学と連携実績が既にある。ラボのプレスリリースによると、2022年1月に丸紅が発表し、同社がオーストラリアで進めているグリーン水素の実証事業で、南オーストラリア州で製造したグリーン水素をインドネシアへ輸送する際に、ラボの技術が使われた水素吸蔵合金タンクが採用されている(注2)。また、ラボは2022年1月に伊藤忠商事とも覚書を締結している。丸紅と伊藤忠はそれぞれ、ラボの技術を活用し、水素サプライチェーン構築に向けた戦略の共同検討などを実施する予定だ。2023年6月には東京大学先端科学技術研究センター河野研究室と共同研究商業化協定を締結し、ラボの製品の高性能化を達成しつつ、日本市場向けローカライズを目指す。ラソール氏によると、今後、日本市場でのビジネス拡大に関心を持っているという。

(注1)ラボの水素貯蔵事業は、オーストラリアの脱炭素分野のスタートアップの実例として、連邦政府貿易投資促進庁が8月に開催したオーストラリア脱炭素ビジネスサミット(2023年8月22日記事参照)でも紹介された。

(注2)丸紅の実証事業は、日本の環境省の令和3年度の2国間クレジット制度資金支援事業である「令和3年度二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金(二国間クレジット制度資金支援事業)水素製造・利活用第三国連携事業」に採択されている。

(青島春枝)

(オーストラリア、日本)

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