欧州産業界、製造物責任指令の改正案に強い懸念

(EU)

ブリュッセル発

2023年10月30日

欧州の情報通信技術(ICT)関連産業団体のデジタルヨーロッパなど12団体は10月20日、欧州委員会が2022年9月に提案した製造物責任指令の改正案(2022年9月30日記事参照)について、EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会への共同書簡を発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。12団体は、両機関の同改正案の成立に向けた協議開始を前に、欧州委案に強い懸念を示し、内容を大幅に見直すよう要請した。

現行の製造物責任指令は、消費者が欠陥のある製造物により損害を被った場合の製造事業者などの民事責任を規定する。改正案では、デジタル化などに即し適用対象製品を拡大、消費者救済の在り方や責任主体の明確化が提案された。また、訴訟となった場合、裁判所が事業者に対し、製品に関する情報開示を請求可能とし、製品の欠陥や損害との因果関係を一定程度の立証をしていれば、消費者の立証に基づき推定できるとした。

これに対し12団体は、現行指令では消費者と企業双方の利害や権利が公正に保護されているが、改正案は公正さに欠けると主張。企業が一方的に訴訟リスクにさらされており、訴訟文化へつながると批判した。製品開発への投資減退や産業競争力の低下を招くだけでなく、消費者も不利益を被りかねないとした。特に、デジタル製品全般が適用対象とされる点を強く懸念し、(1)被害者(請求権者)の損害の立証責任、(2)企業の製品情報の開示範囲、(3)補償対象となる損害の明確化、の3点について提言した。

(1)について、現行指令では請求権者が損害と製品の欠陥、および両者の因果関係を証明する責任を負う。改正案では、立証責任自体は請求権者側に残るものの、立証が過度に困難な場合などは、請求権者の責任負担を軽減し、裁判所による因果関係の推定を可能としている。このため、反論する側の企業が事実上、立証責任を負い、因果関係を示す有力な証拠がなくとも請求権者の主張が認められる可能性があると指摘。請求権者に許容する立証責任の軽減を極力なくし、裁判所が推認するにあたって、請求権者が立証すべきことを明確に定めるべきとした。

(2)については、改正案の情報開示に関する規定は、企業の機密情報を十分に保護していないと指摘。情報開示に伴う損失を避けるために根拠の薄い主張への対応に追われる事態が想定されると主張し、企業が開示すべき情報の範囲を必要最低限にとどめるべきだとした。また、企業側にも、請求権者に対し損害に関連する情報提供を請求できる権利を与えるべきだとした。

(3)に関し、改正案で適用対象に含められたソフトウエアに言及し、データの損失や破損までを開発者の責任範囲とすると、従来の製品の安全性の定義を超え、企業の責任が無制限になる可能性を生むと指摘。欧州議会が、無料のオープンソース・ソフトウエアは改正案の適用対象外とする修正を提示したことに触れ、提訴の乱発を避けるため、適用対象にする予定の製品を精査し、補償の対象となる損害について明確に定義すべきとした。

(滝澤祥子)

(EU)

ビジネス短信 cf84b5cd5e17b43c