米中部大西洋岸水素ハブ、バイデン政権の7つの水素ハブの1つに選定

(米国)

ニューヨーク発

2023年10月19日

米国バイデン政権が10月13日に発表した米国内7カ所の水素ハブ(2023年10月16日記事参照)の1つに、中部大西洋岸水素ハブ(MACH2:Mid-Atlantic Clean Hydrogen Hub)が選定された。

中部大西洋岸水素ハブでは、ペンシルベニア州、デラウェア州、ニュージャージー州の多数の製造業や化学・バイオサイエンス企業および大学が存在するとともに、多数の石油・ガスインフラが整備されている地域特性を生かしつつ、(1)クリーンでゼロエミッションのグリーン水素およびピンク水素(注1)を生成し、地域のエネルギー産業を活性化する、(2)工業化され、人口が密集している地域の既存のパイプラインと製油所などの石油・ガスインフラを再利用・再活性化する、(3)2万人分以上の高収入の仕事を創出・維持し、クリーンエネルギー分野で新たな人材を生み出す、(4)ジャスティス40イニシアチブ(注2)に沿って、恵まれないコミュニティに直接利益をもたらす経済的機会と健康改善を提供する、という4つの目標達成を目指してプロジェクトが進められる。

(1)および(2)に関しては、革新的な電解槽技術も活用しつつ、再生可能エネルギーおよび原子力による水素生産施設を開発することで、水素1キログラム(kg)当たり二酸化炭素(CO2)排出量を0.17kg減少させたクリーンな水素を日量300トン生産することを目指す。同時に、需要側の対策として、トラックやバスなどの重量輸送、製造業などにおける活用、熱電併給の拡大などに取り組むほか、エンドユーザーへの供給を促進するべく水素供給インフラの整備やバス整備工場、給油所などの設備更新などを進めていく考えだ。

(3)および(4)に関連する労働力開発に関しては、地域の労働開発委員会に1,400万ドルを提供してコミュニティカレッジでのトレーニングや実習を強化するほか、フィラデルフィア建設業協議会やチェイニー大学をはじめとする関係団体や、マイノリティ支援機関と連携して見習いプログラムなどを強化するなどの取り組みを進めることで、建設関連で1万4,400件の雇用、そのほか常勤雇用を6,400人分創出したい考えだ。

このように、本プロジェクトは単なる水素製造にとどまらず、需要の拡大や地域の活性化、労働力開発、質の高い雇用の創出といった幅広い取り組みを包括したプロジェクトとなっていることから、(1)水素製造分野、(2)原料・インフラ分野、(3)水素サプライチェーン分野、(4)教育・調査分野、(5)輸送部門における活用促進分野、(6)産業・商業における活用促進分野、(7)労働力・地域コミュニティ分野、という7つの分野に分かれて、エネルギー、通信、運輸、労働、産業界、教育機関、環境団体、政府機関などがそれぞれの強みに応じて参加し、これらが相互に連携することで効率的な水素エコシステムを構築していく体制を整えている(MACH2のWEBページ参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

本プロジェクトについて、連邦議会上院の環境・公共事業委員会のトム・カーパー委員長(民主党、デラウェア州)は「中部大西洋クリーン水素ハブに青信号が出たことはデラウェア州、米国、地球の将来にとって素晴らしいニュースだ。クリーンな水素は、デラウェア州や米国全土で高収入の雇用を創出しながらCO2排出量を削減する上で重要な役割を果たしている。インフラ投資・雇用法の上院共同提案者として、私たちの地域には第一級の労働力、強力な産業、そしてクリーンな水素の生産を支えるのに必要な既存インフラがあるとエネルギー省が認めたことを誇りに思う。本プロジェクトにより、デラウェア州はクリーンエネルギーのリーダーとしての地位を強化し、国の気候変動目標の推進に貢献できるだろう」と歓迎のコメントを発している。

(注1)グリーン水素は再生可能エネルギーを用いて、また、ピンク水素は原子力発電による電力を用いて、水を電気分解することで生産する、生産工程でCO2を発生させない水素を指す。

(注2)バイデン政権による、連邦政府が州や地域社会と協力し、気候変動対策やクリーンエネルギーへの連邦政府の投資から得られる利益全体の少なくとも40%を地域社会に提供するプログラム。

(加藤翔一)

(米国)

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