欧州中小企業連合会、持続可能性報告が中小企業の負担となっている現状危惧

(EU)

ブリュッセル発

2023年10月17日

欧州中小企業連合会(SMEunited)は10月11日、欧州銀行連盟(EBF)との会合で、中小企業の持続可能性関連の情報開示を支援するため、任意の報告基準を早期に策定するよう要請したと発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。SMEunitedのゲアハルト・ヒューマー経済政策担当部長はEBFの企業向け貸し付け専門家グループとの会合で、融資の申請や供給契約の際、銀行や取引先の大手企業から持続可能性関連の報告を求められる中小企業が増加傾向にある上、銀行によって報告要件が大きく異なると指摘。中小企業向けに簡易な報告手段や文書のひな型、ガイドラインを早急に提供すべきと訴えた。さらに、中小企業向けには現在、エネルギー効率化や再生可能エネルギーの生産などグリーン関連投資への財政支援が主流となっているが、より持続可能な、また炭素中立のビジネスモデルへの転換には、使途を限定しない融資が必要だとした。

「義務ではない」持続可能性報告が中小企業の負担に

EUでは近年、企業による環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)分野の情報開示関連の法整備が進んでいるが、中小企業は一定の条件下で多くの法令で適用外となっている(2023年9月5日付地域・分析レポート参照)。SMEunitedと欧州商工会議所(ユーロチェンバース)は9月27日、中小企業のサステナブルファイナンスの活用についての調査報告書PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(注1)を発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。同調査に回答した中小企業(2,142社)のうち、ESG関連法令で持続可能性報告の義務が直接ない企業(1,866社)の19%が銀行や大企業に持続可能性報告を要請されたと回答。この割合は企業規模に応じて高くなっており、零細企業(803社)の9%に対し、中規模の企業(437社)では35%が報告を要請されていた(注2)。今後、企業持続可能性報告指令(CSRD)の適用開始(2023年8月3日記事参照)によって、こうした企業はさらに増える可能性がある。また、ESG関連法令で報告が義務付けられている企業(276社)の57%は取引先企業などから追加報告を求められていた。報告先に関する設問(複数回答)では、取引先企業が42%で最も多く、続いて銀行が32%だった。

同調査では、ESG関連法令の大企業に対する報告義務が「トリクルダウン効果」によって中小企業に間接的に課せられており、大きな負担となっていると指摘し、中小企業向けの持続可能性報告基準の策定を提言した。欧州委員会が同基準を承認すれば、中小企業の戦略にとって指針となるだけでなく、トリクルダウン効果の削減や、銀行が融資承認に当たって活用可能となるとした。

また、中小企業向けにサステナブル融資のガイドラインの策定や、公的な財政支援プログラムの最適化なども提言した。

(注1)同報告書は2023年夏に行ったEU加盟国のうち25カ国2,142社が回答したアンケート調査と、一部の回答企業へのインタビューに基づいて作成された。

(注2)同調査では回答企業を従業員数などに応じて4つに分類。零細企業は従業員数9人以下で売上高70万ユーロ以下、総資産額35万ユーロ以下の企業、中規模の企業は従業員数250人以下で売上高4,000万ユーロ以下、総資産額2,000万ユーロ以下の企業を指す。

(滝澤祥子)

(EU)

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