CBAM移行期間が開始、ドイツ産業界は煩雑な手続きを批判

(ドイツ、EU)

ベルリン発

2023年10月16日

EUの炭素国境調整メカニズム(CBAM、注1)の移行期間が10月1日に開始した。移行期間中は、炭素価格が課されてない対象製品をEU域外から輸入する場合、対象製品の輸入量や、その製造過程で排出される温室効果ガス(GHG)排出量などを記載したCBAM報告書を四半期ごとに提出することが義務付けられる。

ドイツの産業界からは、CBAMの実施にかかる問題点が指摘されている。

ドイツ商工会議所連合会(DIHK)は、CBAMは、欧州の厳格な気候保護規制が国際競争上で引き起こす不利益から自国企業を守る仕組みだとの理解は示しつつ、実施にあたり実務上かつ通商政策上の問題があるとの指摘を続けてきた。DIHKのフォルカー・トライア対外経済部長は、150ユーロ相当のネジの輸入にも、四半期ごとにおおよそ300項目にわたる報告書の提出を求めるCBAM実施規則は、移行期間開始までに企業に十分な準備期間がなく、かつ煩雑な行政手続きを伴う実施方法であり「多くの企業にとり多大な負担になっている」と批判した(DIHK9月27日付発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。行政手続きの負担に加え、輸出国であるドイツ経済にとっての問題点も指摘。「輸入中間製品に対する高い炭素税は、特に米国、中国、ASEAN、日本などの重要な市場において、ドイツの輸出産業の競争力に影響を与える」として、「CBAMは経済の特定分野におけるカーボンリーケージの問題に対処しているが、同時に、ドイツの輸出産業の世界市場における競争力に負荷をかけるものだ」との懸念を示した。

さらに、CBAMの代替手段にはドイツ政府が主唱する気候クラブ(2022年6月30日記事参照)があることを指摘し、自由貿易と気候保護を両立させ国際貿易における紛争を回避するため、拘束力のあるかたちで気候クラブを実現するべきだと主張。「EU加盟各国の重要な貿易相手国が炭素価格を導入しない限り、気候変動対策が目的の関税のような制度は性急であると同時に多くの分野で競争のゆがみをもたらす」として、CBAMの移行期間を予定より長くすることを求めた。

また、CBAM移行期間開始前に、デロイトドイツがドイツ企業を対象にアンケート調査を実施した(注2)。CBAMを知っているとした回答者(約200人)のうち、CBAM規制が自社に財務上の影響を与えるか、との問いに「非常に大きな影響がある」「大きな影響がある」と回答したのは55.7%にのぼった。自社の競争力にCBAMが与える影響については、「明確に良い影響がある」「ある程度良い影響がある」との回答割合は17.5%だったのに対し、「明確に悪影響がある」「ある程度悪影響がある」との回答割合は58.3%と、多くの企業が懸念していることが明らかになった。また、CBAMの影響でEU域外のサプライヤーを「確実に変更する」「変更するだろう」との回答割合は18.2%、「部分的に変更する」が22.9%、「絶対に変更しない」「変更しないだろう」は47.6%と、既存サプライヤーとの取引を維持したいとの考えが示された。

なお、DIHKでは、10月以降、複数回にわたり企業向けにCBAM対応の説明会を実施している。

(注1)CBAMの詳細は2023年8月31日付地域・分析レポート参照

(注2)調査は2023年6月27日~8月7日に実施。調査対象は、EU域外からCBAM対象製品(鉄・鉄鋼、セメント、アルミニウム、電力、肥料、水素、その他の上流および下流の製品)を輸入しており、かつ業種が製造、加工、エネルギー、水、廃棄物、リサイクル、建設、不動産、住宅、商業、運輸、物流に該当する民間企業。本短信で紹介したアンケート設問には、対象企業においてCBAM対象品目の輸入に携わる意思決定者かつCBAMを知っているとした、約200人が回答。

(中村容子)

(ドイツ、EU)

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