米USTR、キャタピラー子会社での労働権侵害の疑いでメキシコ政府に確認要請

(米国、メキシコ)

ニューヨーク発

2023年10月30日

米国通商代表部(USTR)は10月26日、メキシコ北東部タマウリパス州ヌエボラレドに所在する米建機大手キャタピラーの子会社テクノロヒア・モディフィカーダで労働権侵害の疑いがあったとして、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)が定める「事業所特定の迅速な労働問題対応メカニズム(RRM)」に基づき、メキシコ政府に事実確認を要請したと発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。同子会社は自動車部品の製造を手掛けている。

RRMは、事業所単位で労働権侵害の有無を判定する手続きで、違反が認められれば、USMCAによる特恵措置の停止といった罰則が適用される。RRMの手続きは、USMCA加盟国政府が独自に発動できるが、労働組合などの第三者機関が加盟国政府に労働権侵害を申し立てることも可能だ。今回はメキシコの新興独立系労組の全国工業サービス労働者独立組合20/32運動(SNITIS)から申し立てを受けたとしている。前記のキャタピラー子会社で雇用者側が労働者による組合設立活動への報復として労働者を解雇した疑いがあるとの理由に基づく。なお、SNITISは、米国がメキシコにRRMに基づいて事実確認を求めたパナソニック・オートモーティブ・システムズでの案件(2022年7月15日記事参照)でも申し立てをしている。

事実確認の要請を受けたメキシコ政府はUSMCAに基づき、調査を行うか否かを10日以内に返答しなければならず、調査を行う場合には45日以内に完了する必要がある。また、今回のUSTRによる確認要請をもって、米国は対象施設からの製品輸入について、両国間で労働権侵害の解消に合意するまで、最終的な税関での精算を留保できる。実際、キャサリン・タイUSTR代表は財務長官に対し、キャタピラー子会社からの製品輸入にこの措置を適用するよう指示PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)した。キャタピラーは今回の件について、同社は誠実な団体交渉や労働者の権利を尊重しているとした上で、「当社は問題の早期解決と各国の法律の順守を確固たるものとすべく、積極的に米国、メキシコ両政府に関与している」との声明を出している(ロイター10月26日)。

米国は特に2023年に入ってからRRM手続きを多数発動しており、今回で既に11件目、また、USMCA発効からは合計で16件目の発動となる(添付資料参照)。メキシコ政府はこれまで、米国から確認要請を受けた案件の多くで、問題の迅速な解決に向けて米国政府に協力してきた。しかし最近は、メキシコ政府は案件によってはRRMを利用する適格性を欠くものもあるとして、事実確認要請を拒否する案件も出ている。また、事実確認の対象となった工場の中には、RRMが直接的な影響を与えたかは不明なものの、閉鎖を決定した例も出ている(2023年10月12日記事参照)。同制度を巡る米・メキシコ両国の運用とその影響が引き続き注目される。

(磯部真一)

(米国、メキシコ)

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