蔡英文総統、双十節式典で両岸関係の現状維持とサプライチェーンの台湾の重要性強調

(台湾)

調査部中国北アジア課

2023年10月12日

台湾の蔡英文総統は1010日に開催された双十節の祝賀式典で、各国代表の表敬訪問に応じるとともに、スピーチ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを行った。総統府の発表によると、海外からはナウルのラス・ジョセフ・クン大統領やカナダの連邦参議院議員団、オーストラリアのスコット・モリソン前首相、米国のケリー・クラフト前国連大使をはじめ、約180人の来賓が参加した。日本からは古屋圭司会長を団長とする日華議員懇談会のメンバーが過去最多の約50人でパレードに参加した。

蔡英文総統の2期目(1期目と合わせて合計8年)の任期が2024520日までとなるため、これまでの政権運営を総括するとともに、中国との両岸関係について「平和は唯一の選択肢」とし、国際社会のさらなる台湾への支持を呼びかけた。

写真 スピーチする蔡英文総統(日本台湾交流協会提供)

スピーチする蔡英文総統(日本台湾交流協会提供)

演説のポイントは次のとおり。

(1)政権運営の総括

30年来の夢だった台湾自主建造の潜水艦「海鯤」が完成し、2025年に就航することになった。地域の平和を守るためで、全世界の賛同を得られると信じている。同性婚を認める婚姻平等法の可決や年金改革について、反対者の包容力と理解に謝意を表したい。社会住宅(適正家賃で良質な環境を備えた公営住宅)の建設は、2024年末に目標とする20万戸を達成する見込みだ。

電力については、7年前は1.64%しかなかった電力の予備率は、供給能力の拡大とグリーンエネルギーの導入を進めた結果、現在はピーク時も7〜10%を維持している。

(2)台湾経済

台湾のGDPについて、蔡英文政権がスタートした2016年には17兆5,000億台湾元(約80兆5,000億円、1台湾元=約4.6円)だったが、2023年は23兆台湾元を突破する見込みで、世界の中でも安定した経済成長と物価水準を維持している。「6大核心戦略産業」(注1)を推進し、科学技術と製造能力によって、台湾は世界のサプライチェーンに欠くことのできない重要な役割を担っている。単一市場への過度な依存を修正し、米国への輸出額を大きく増加させ、米国とは「台米21世紀貿易イニシアチブ」の合意(2023年5月25日記事参照)に至り、新たな貿易協定の概念を作り出した。新南向国家(注2)への輸出額も史上最高額となったほか、EUとの連携も深めており、現在、台湾への対内直接投資のうち、金額が最も多い地域はEUだ。

(3)地域の安定と平和への貢献

現在の台湾は、既に世界の台湾である。地域戦略、グローバルデモクラシー、国際サプライチェーンのいずれにおいても台湾は最も信頼でき、最も効率が良く、最も安全なパートナーである。両岸において平和は唯一の選択肢であり、現状維持を双方の最大公約数とすることが、平和を維持する鍵である。国際社会の台湾に対する支持はさらに強まると信じている。世界が注目し、力を尽くして台湾海峡の平和と安定を維持する中、われわれはチャンスを掴み、リスクを管理し、両岸双方が平和と安定の重要な貢献者にならなければならない。

(注1)蔡英文総統2期目就任時の2020年5月に打ち出した重点産業政策。モノのインターネット(IoT)・人工知能(AI)、情報セキュリティー、バイオ・医療、防衛、グリーンエネルギー、戦略的備蓄(マスク、医薬品など)の6業種を対象としている。

(注2)ASEAN10カ国(シンガポール、インドネシア、フィリピン、ベトナム、タイ、マレーシア、カンボジア、ラオス、ミャンマー、ブルネイ)、南アジア6カ国(インド、パキスタン、バングラデシュ、スリランカ、ネパール、ブータン)、オセアニア2カ国(オーストラリア、ニュージーランド)の計18カ国。

(江田真由美)

(台湾)

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