CBAM移行措置が開始、トルコでは排出権取引制度(ETS)導入が課題

(トルコ、EU)

イスタンブール発

2023年10月10日

欧州委員会は10月1日付で、炭素国境調整メカニズム(CBAM)規則の移行措置として、EU域外から対象製品を輸入する事業者に対して、対象製品の輸入量とその製造過程で排出される温室効果ガス(GHG)排出量などの報告義務の適用を開始した(2023年10月3日記事参照)。トルコは輸出総額の約4割をEU向けが占めるため、CBAMの影響は極めて大きい。

CBAM規則は、EU排出量取引制度(EU ETS)に基づいて域内の製造事業者に課される炭素価格と同等の炭素価格をEU域外から輸入される対象製品に課す規則だ。トルコ気候変動対策庁が欧州復興開発銀行(EBRD)との協力で作成した報告書PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)によると、二酸化炭素(CO2)排出1トン当たりの炭素価格を75ユーロと想定すると、トルコにとって2027年に年間1億3,800万ユーロ、炭素価格が150ユーロに増額された場合は2032年には25億7,900万ユーロのコスト圧力となる。このため、トルコ政府は英国、スイスなどにならい、EU ETSに整合する国内排出権取引制度(ETS)を導入し、EUにCBAMの適用除外や軽減などを求めていくことになる。トルコ政府は既に2021年に「グリーンディール・アクションプランPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)」を発表、同年10月にはパリ協定も批准するなど、準備を進めている(2021年10月13日記事参照)。

CBAMの対象製品(鉄、鉄鋼、セメント、肥料、アルミニウム、水素、電力など)のうち、特に鉄鋼、セメント、化学品はトルコの戦略的な輸出品目で、各業界は対応を迫られている。鉄鋼業界は、エネルギー消費の効率化のため排熱の再利用や、再生可能エネルギーへの切り替えによる対策を講じている(2023年2月24日付地域・分析レポート参照)が、競争力を維持するためには、ETSの導入とその収入による国家支援が必要としている。

トルコのセメント産業は現在、56の総合セメント工場、21の粉砕施設を擁し、年間1億2,000万トンの設備容量を有する。生産プロセスでのCO2排出量は多いが、同産業界のCBAMに対する意識は高く、代替燃料の利用によって排出量を約30%削減できるとしている。

アルミニウム産業界も同様の取り組みをしているが、国内中小企業のCBAMに対する認知度は低いという。さらに、アルミニウムはロシアから原料を多く輸入しているが、EUがロシアを特恵関税対象国から外した一方、トルコがロシアを特恵関税対象国とし続けていることから、トルコからEUへのアルミニウム輸出がアンチダンピング調査の対象となる可能性が指摘されるなど、派生した問題も懸念されている。

(中島敏博)

(トルコ、EU)

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