インドでのCBAMの影響は鉄鋼・アルミニウム産業が中心

(インド、EU)

ニューデリー発

2023年10月30日

EUが新たに導入する炭素国境調整メカニズム(CBAM、注)は、インドの一部産業にも影響が及ぶ見通しだ。研究機関のグローバル貿易研究イニシアチブ(GTRI)は、インドからの鉄鉱石、鉄製品、鉄・鉄鋼、アルミニウムおよびその製品の全輸出額のうちEU向けが約27%の82億ドル(2022年)を占めることから、特にこれらの産業での影響が大きいと予測する。地場信用格付け企業ICRAは6月の発表で、インド国内の主要製鉄企業による粗鋼生産時の平均二酸化炭素(CO2)排出量が国際平均より12%程度高いことに触れ、CBAMの移行期間(2023年10月1日~2025年12月31日)終了後はCBAM証書の購入義務化に伴い、インド製鉄企業は利益減少やEU市場でのシェア低下に直面しかねないと指摘した。

関連分野のインド企業は現在、CBAMに向けた対策を進めている。CBAMの移行期間開始を機に、国内の複数の製鉄所には、CO2の排出状況を確認するエネルギー監査の専門部隊が訪れはじめたと報じられている(「ビジネスライン」紙10月21日)。また、大手法律事務所からの助言を得ながら、今後のEU向け輸出契約の内容を見直す企業があるほか、EU向け輸出を念頭に置いた低炭素排出型の製鉄所の新設計画に言及する企業もある(「ミント」紙10月24日)。こうした動きは大企業を中心に見られる一方、中小企業にとってはCBAM対応にかかるコスト負担が大きい点や、中小規模の商社が情報開示においてどこまでメーカーからの理解を実際に得られるかが課題とみられている。

2022年6月にEUとの自由貿易協定(FTA)交渉を再開したインド政府は、交渉の場でCBAMにかかわる協議も行っている。インドのピユシュ・ゴヤル商工相は2023年5月、EUがCBAMを新たな非関税障壁とする意図はないとの見解を示し、双方にとっての解決策を模索している段階だと述べた。

なお、報道によると、インドはEUに対して中小企業をCBAMの適用除外とすることや、CBAMを現在構築中のカーボンクレジット取引制度と連携させることを求めている。また、CBAMの本格適用を開始して以降、EUがインド輸出者から得るCBAM証書購入の税収入についても、EUがインドに還元すべきだと主張している(「ビジネスライン」9月13日)。

(注)CBAMの詳細は2023年8月31日付地域・分析レポート参照

(広木拓)

(インド、EU)

ビジネス短信 0dce549f4a1185b7