米エネルギー省、2023年版風力発電報告書を公表、インフレ削減法などによる活況を示す

(米国)

ニューヨーク発

2023年09月04日

米国エネルギー省(DOE)は8月24日、米国の陸上風力発電、洋上風力発電、分散型風力発電(注1)に関する2023年版の年次報告書をそれぞれ公表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。

陸上風力発電に関する報告書によると、2022年に米国で新設された電力容量のうち22%を風力発電が占め、エネルギー源別では太陽光発電(49%)に次いで2位だった。また、同年中に120億ドルの設備投資がなされ、12万5,000人以上の雇用が生み出された。DOEは、バイデン政権のクリーンエネルギーに対する税制優遇措置(注2)が風力発電の増加と、天然ガスなど他のエネルギー源との価格競争力の維持に役立っていると指摘した。

地域別では、州内の総電力容量のうち風力発電の占める割合が多い州はアイオワ州(62%)で、サウスダコタ州(55%)、カンザス州(47%)、オクラホマ州(44%)が続いた。また、新設が多かった州はテキサス州〔4,028メガワット(MW))〕、オクラホマ州(1,607MW)だった。

産業動向としては、風力発電関連の雇用者数が4.5%増加したほか、11の陸上風力発電施設の新設・再開・拡張が発表されるなど、2022年8月に成立したインフレ削減法(IRA)の効果により、米国内のサプライチェーンの拡大機運が高まっているとした。ただし、例えば風力発電機のブレードについては国産比率が5~25%にとどまるなど、一部の風力タービン部品を除いて輸入に依存している面が依然として大きいと課題も指摘した。技術動向としては、タービン容量で前年比7%増(1998年比では350%増)、ローター直径で3%増(1998~1999年比で173%増)と大型化が進んでいると報告した。

洋上風力発電(注3)に関する報告書によると、2023年5月時点で1,800万世帯分にあたる5万2,687MW規模(前年比15%増)のプロジェクトがあり、2022年に27億ドルの設備投資がされた。

地域別では、ニュージャージー州(1万1,877MW)、ニューヨーク州(8,317MW)、マサチューセッツ州(8,189MW)、カリフォルニア州(6,102MW)、ノースカロライナ州(5,282MW)などが積極的に導入を計画している(添付資料図参照)。

報告書では昨今のマクロ経済情勢による影響にも触れている。洋上風力発電市場は成長を続けているが、サプライチェーンの制約や高インフレ、金利上昇などの影響を受けてプロジェクトコストが11~30%程度上昇したとし、この影響でエネルギー生産コストが6%程度上昇すると試算した。さらに、こうしたハードルが今後の洋上風力発電市場の成長を阻害する可能性があると懸念を示している。

分散型風力発電に関する報告書では、2022年時点で全米に9万基を超える風力発電タービンが稼働し、1,104MWの電力容量があり、地域別には、アイオワ州、カリフォルニア州、ネブラスカ州において大規模なプロジェクトが稼働したほか、小型風力発電の増設ではミネソタ州が全米州別トップだったと報告している。

(注1)主に、電力網から自律分散して地産地消用途に運用される小型の風力発電設備。

(注2)税制優遇措置については、生産比例税額控除(PTC)と投資税額控除(ITC)があるが、例えば洋上風力発電では生産税額控除により、洋上風力発電機のブレードのコストが27%、鉄塔のコストが18%削減されたとする。

(注3)洋上風力発電に関して、バイデン政権は、2030年までに洋上風力発電容量を30ギガワット(GW)まで拡大する目標(2021年3月31日記事参照)と、浮体式洋上風力発電を2035年までに15GWまで拡大するとの目標(2022年9月21日記事参照)を掲げており、この達成に向けた具体的なロードマップ戦略(2023年3月31日記事参照)を掲げている。なお、現在稼働しているのはロードアイランド州沖の施設(30MW)、バージニア州沖の施設(12MW)の2施設のみ。

(加藤翔一)

(米国)

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