米USTR、自動車部品工場での労働権侵害の疑いでメキシコ政府に確認要請

(米国、メキシコ)

ニューヨーク発

2023年09月26日

米国通商代表部(USTR)は9月25日、メキシコ中西部アグアスカリエンテス州に所在する自動車部品メーカー、テクラス・オートモーティブの工場(以下、当該工場)で労働権侵害の疑いがあったとして、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)が定める「事業所特定の迅速な労働問題対応メカニズム(RRM)」に基づき、メキシコ政府に事実確認を要請したと発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。

RRMは、事業所単位で労働権侵害の有無を判定する手続きで、違反が認められれば、USMCAによる特恵措置の停止といった罰則が適用される。RRMの手続きは、USMCA加盟国政府が独自に発動できるが、労働組合などの第三者機関が加盟国政府に労働権侵害を提訴することも可能だ。今回は、メキシコ労働総同盟(Liga Sindical Obrera Mexicana:LSOM)と弁護士の団体、労働者ネットワークに参加する国際弁護士(ILAW Network)から提訴を受けたとしている。当該工場で雇用者側が、労働者による組合設立活動への報復として労働者を脅迫し解雇した疑いがあるとの理由に基づく。なお、LSOMは、米国がメキシコに事実確認を求めたそのほかのRRMの案件でも数件、提訴している。

事実確認の要請を受けたメキシコ政府はUSMCAに基づき、調査を行うか否かを10日以内に返答しなければならず、調査を行う場合には45日以内に完了する必要がある。また、今回のUSTRによる確認要請をもって、米国は当該工場からの製品輸入について、両国間で労働権侵害の解消に合意するまで、最終的な税関での精算を留保できる。実際、キャサリン・タイUSTR代表は財務長官に対し、当該工場からの製品輸入にこの措置を適用するよう指示PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)した。

米国は特に2023年に入ってからRRM手続きを多数発動しており、今回で既に9件目、また、USMCA発効からは合計で14件目の発動となる(添付資料参照)。メキシコ政府はこれまで、米国から確認要請を受けた案件の多くで、問題の迅速な解決に向けて米国政府に協力してきた。しかし最近は、案件によってはRRMを利用する適格性を欠くものもあるとして、事実確認要請を拒否する案件も出てきている(2023年8月24日記事参照)。米国はその場合でも、引き続き疑いがあると認める場合は、いわゆる裁判所に相当するRRMに基づく紛争解決パネルの設置を要請することができる。実際に8月には、メキシコの鉱山における案件で初めてパネル設置を要請した(2023年8月23日記事参照)。メキシコ政府はこうした動きに警戒感を募らせており(2023年8月29日記事参照)、今回の件でもどのように対処するかが注目される。

(磯部真一)

(米国、メキシコ)

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