欧州委、OECD/G20で合意の最低法人税率の適用指令案を発表

(EU)

ブリュッセル発

2021年12月23日

欧州委員会は12月22日、EU域内の多国籍企業に対する世界共通の最低法人税率に関する指令案PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を発表(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)した。これは、財源浸食と利益移転(BEPS)に関するOECD/G20の包摂的枠組み(IF)による10月8日の政治合意(2021年10月14日記事参照)を受けたものだ。この政治合意は、第1の柱(IT企業を含む巨大多国籍企業への課税権)と第2の柱(世界共通の最低法人税率)からなる。第2の柱は、15%の国際的な最低法人税率を導入するもので、大規模な多国籍企業グループに適用される。最低限の法人税負担を確保するためのルール(GloBEルール)として、法人税の実効税率が15%を下回る場合に追加税を課すための基本ルールとなる所得合算ルール(IIR)と、そのバックストップ(安全策)となる軽課税支払ルール(UTPR)を導入する。

今回の指令案は、この政治合意のうち、第2の柱の実施に必要なGloBEルールをEU域内で適用するための法案だ。OECDは12月20日にGloBEルールの国内実施に向けたモデル規則を発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますしており、今回の指令案は、基本的にこのOECDのモデル規則に沿った内容となっている。ただし、適用対象に関しては、OECDのモデル規則では、売上高が7億5,000万ユーロを超える多国籍企業グループに限定されているが、同指令案では、1つの加盟国のみに設置された売上高が7億5,000万ユーロを超える企業グループも対象に含まれる。これは、EUの基本原則である移動の自由、特に他の加盟国での自由な事業活動を認める「開業の自由」との整合性を保つためだ。EUでは、企業が設立地である加盟国以外の加盟国で子会社などを設置する自由が認められており、このような子会社などの設置を阻害する規制が禁止されている。なお、今回の指令案の適用開始時期については、IFによる政治合意と同様に、一部を除き2023年1月1日を目指すとしている。今後、今回の指令案はEU理事会(閣僚理事会)で審議し、全会一致で採択する必要がある。なお、キプロス以外のEU加盟国は既にIFによる政治合意を支持しており、欧州委はキプロスに対しても今回の指令案への支持を求めるとしている。

ペーパーカンパニーの乱用防止法案も発表

また、欧州委は12月22日、ペーパーカンパニーの乱用を防止するための指令案PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)も発表(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)した。背景にあるのは、多国籍企業などによる租税回避目的でのペーパーカンパニーの乱用だ。経済活動の実態のないペーパーカンパニーはビジネスで一定の役割を果たしていることから、この指令案はペーパーカンパニーを直接的に規制するものではないが、ペーパーカンパニーが税制上の優遇措置を受けられないようにすることで、利用の抑制を目指す。この指令案には、加盟国の税務当局がペーパーカンパニーを見分けやすいようにする透明性基準の設置などが盛り込まれている。今後、同指令案もEU理事会で審議される。

(吉沼啓介)

(EU)

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