米USTR、貨物航空会社での労働権侵害の疑いでメキシコ政府に確認要請、サービス産業で初

(米国、メキシコ)

ニューヨーク発

2023年09月01日

米国通商代表部(USTR)は8月30日、メキシコシティを拠点とする貨物航空会社マス・エアで労働権侵害の疑いがあったとして、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)が定める「事業所特定の迅速な労働問題対応メカニズム(RRM)」に基づき、メキシコ政府に事実確認を要請したと発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。米国がメキシコにサービス産業でRRMを発動するのは今回が初めて。

RRMは、事業所単位で労働権侵害の有無を判定する手続きで、違反が認められれば、USMCAによる特恵措置の停止といった罰則が適用される。RRMの手続きは、USMCA加盟国政府が独自に発動できるが、労働組合などの第三者機関が加盟国政府に労働権侵害を提訴することも可能だ。今回は、メキシコの組合である航空パイロット組合連合(ASPA)から提訴を受けたとしている。提訴は、マス・エアで労働組合への加盟を理由に、労働者に対する嫌がらせや脅迫、報復が行われたり、5月9日に実施された労働協約の適法化(注)のための投票で不正が行われたりしたとの主張に基づく。事実確認の要請を受けたメキシコ政府はUSMCAに基づき、調査を行うか否かを10日以内に返答しなければならず、調査を行う場合には45日以内に完了する必要がある。

米国は特に2023年に入ってからRRM手続きを多数発動しており、今回で既に8件目、USMCA発効からは合計で13件目の発動となる(添付資料参照)。自動車分野以外での発動は今回が3件目(2023年8月8日付地域・分析レポート参照)。USTRのキャサリン・タイ代表はプレスリリースで、今回のRRM発動は「米国がサービスを含むあらゆる産業・部門においてUSMCAにうたわれている労働権の保護にコミットしていることを強調している」と指摘した。

RRMを巡っては、米国は8月22日、メキシコ鉱山での労働権侵害の疑いに関する案件でメキシコが事実確認要請に応じなかったことを受け、初となるRRMに基づくパネル設置を要請したばかりだ(2023年8月23日記事2023年8月29日記事参照)。メキシコは、米国が同月にRRM手続きを発動した自動車部品工場での労働権侵害の疑いについても、事実確認要請を拒否している(2023年8月24日記事参照)。今後、米国によるRRM手続きの積極活用が続けば、パネル設置にもつれ込む案件も増える可能性がある。

(注)2019年5月1日付官報で公布した連邦労働法の改正で盛り込まれた手続きで、雇用主が労働組合との間で同日以前に締結した既存の労働協約の内容について、職場の労働者の過半数の賛成を経て再承認するプロセス(2019年8月5日記事参照)。

(甲斐野裕之)

(米国、メキシコ)

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