エネルギー移行ロードマップ第2弾、20億リンギを投じ基金立ち上げ
(マレーシア)
クアラルンプール発
2023年09月04日
マレーシア政府は8月29日、国家エネルギー移行ロードマップ(NETR)の第2弾を発表した。2050年までの脱炭素化に向けたロードマップ第1弾では、主要6分野で10基幹プロジェクトを特定していたが(2023年8月1日記事参照)、今回は加えて、基金設立や国家エネルギー評議会による統治を柱に、上記プロジェクトを実行するための具体策や目標を盛り込んだ。
主要6分野については、国家エネルギー政策(2022年9月27日記事参照)で定めた目標を上書きするかたちで、2050年までに実現すべき新たな数値目標を設定した〔国家エネルギー移行ロードマップ(NETR)22ページ目〕。例えばエネルギー効率では、産業部門で23%、住宅部門で20%のエネルギー消費節減を目指す。再生可能エネルギー(以下、再エネ)に関しては、石炭火力発電を2050年までに全廃するとともに、再エネ比率を2050年までに70%へ高めるとの新たな目標(2023年5月15日記事参照)も、あらためて明記した。水素については、化石燃料から抽出するグレー水素を2050年までに全廃すること、グリーンモビリティ分野では市場総需要量(TIV)に占める電動車(xEV)比率を80%へ、xEV製造能力を強化し将来的には現地生産比率を90%へ、それぞれ高めることなどが掲げられた。
アンワル・イブラヒム首相は、NETRの実現に向け、エネルギー移行関連事業を支援する基金「国家エネルギー移行ファシリティ(NETF)」を立ち上げ、ここに20億リンギ(約620億円、1リンギ=約31円)を割り当てると表明した。エネルギー移行実現における最大の課題は資金調達で、政府の試算によれば、2023~2050年に少なくとも1兆2,000億リンギの投資が必要とされる。今後10年間で、公共交通機関の拡大、送電網インフラの強化、人的資本の再教育などに600億~900億リンギを割り当てる。
NETFにおいては、政府による資金のみならず、将来的には民間資金も組み合わせて調達を拡大することで、エネルギー移行関連事業に対する継ぎ目ない資金投入を確保したい考えだ。投資分野の例としては、電気自動車(EV)バリューチェーン構築、水素、二酸化炭素の回収・有効利用・貯留(CCUS)技術などが挙げられた。
国家エネルギー評議会を設立、2024年には再エネ取引所も稼働へ
政府は、NETRの進捗を監督する国家エネルギー評議会も発足させる。ラフィジ・ラムリ経済相によれば、国家エネルギー評議会の初回会合は10月に開催の予定。アンワル首相が議長、経済省が事務局を務める。評議会では、NETRの推進に向けてハイレベルで方向性や政策を定め、各作業部会が進捗を管理する。
さらに、余剰再エネを収益化するための再エネ取引所を、2024年中に設立する。アンワル首相は、「太陽光パネル、EV充電設備、エネルギー貯蔵など、サプライチェーン全体にわたるクリーンエネルギーへの移行は、膨大なビジネスチャンスが存在する」とし、エネルギー移行による投資機会拡大や経済の再構築にも期待を示した。
(吾郷伊都子)
(マレーシア)
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