シンガポールメディア、ALPS処理水放出後は中立的な報道維持

(シンガポール)

シンガポール発

2023年08月31日

東京電力福島第1原子力発電所のALPS処理水の放出開始後、8月30日時点では、シンガポール政府から関連した声明は出ていない。現地メディアは、放出前と同様(2023年8月18日記事参照)に、中立的な立場を維持している。

8月24日付の地元英字紙「ストレーツ・タイムズ」は「シンガポールでは日本産水産物を即時輸入禁止することはない」とし、日本産の水産物の摂取を避ける消費者と、普段どおり日本産の水産物を食生活に取り入れる消費者の声をそれぞれ取り上げた。

28日付の記事では、専門家の意見を交えて科学的な見地から、ALPS処理水放出が健康に及ぼす影響を紹介。「専門家によると、日本産の水産物や塩をバランスの取れた食生活の一部として食べることは、シンガポール人にとって大きなリスクにはならないが、長期的な影響を監視する必要がある」とした。

中国語で発信する媒体でもこれまで、中立的な報道が目立つ。「早報」(8月25日付)はALPS処理水放出前の状況として、「日本がALPS処理水放出を開始したことで、食の安全に対する懸念が広がっているが、水曜日(8月23日)の夜も地元(シンガポール)の多くの日本食レストランは混雑しており、通常どおり食事する客もいる」とする一方で、「当分の間は食事を控えて様子を見る客もいるなど、反応はさまざまだった」と報道。放出開始後も、他国・地域での情報を報道するにとどまっている。

水産物関連事業者、今後の消費者動向を警戒しつつも、状況を冷静に捉える

ジェトロが8月25日から29日までにシンガポールの水産物関連事業者に対して行った聞き取り調査によると、その多くは消費者動向を懸念していると回答した。

聞き取り調査に協力したすし職人は「風評被害を懸念しているが、現時点で予約は大幅に減っていない」と語った。また、日本からの鮮魚を取り扱う居酒屋経営者は「ALPS処理水放出後、客足がやや鈍っているように感じるものの、ALPS処理水によるものかはわからない」と、冷静に状況を捉えている。ローカル系水産物卸売業者は「取引先の間で話題になってはいるが、私自身は科学的データを信用しているので、楽観的に捉えている。数カ月で多くの人は忘れるだろう」との見方を示した。

(青沼秀人)

(シンガポール)

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