中国、福島原発ALPS処理水の放出決定に反対、食品安全にあらゆる措置

(中国)

北京発

2023年08月24日

中国の外交部は8月22日の記者会見で、日本が東京電力福島第1原子力発電所のALPS処理水(注1)の海洋放出を決定したことについて「公然と全世界に核汚染リスクを転嫁するもの」として反対を表明し、すでに日本に対して厳正な抗議を行ったとした。

外交部はALPS処理水について、浄化装置の長期的信頼性やデータの信ぴょう性、モニタリングの有効性などに対する国際社会からの懸念が晴れていないとし、「(処理水が)安全ならば放出の必要はなく、安全でないならばなおさら放出すべきでない」として、決定の撤回を求めた。その上で、中国は海洋環境の維持、食品の安全と公衆の健康のために、あらゆる必要な措置を取るとした(注2)。

現地報道をみると、8月22日付の「人民網」(注3)は「日本は(海洋放出という)最もコストの安い処理方法を選択し、その正当化に高額の費用を払っている」と非難した。8月23日付の「環球時報」(注4)は「国際社会は無期限に日本の責任を追及できる」と題した社説で、「(海洋放出は日本にとって)国際的道義の上で拭うことのできない永久の汚点となり、海の生態系に対して長期的で逃れることのできない責任を負う」とした。

福島原発事故の発生にともない、中国は日本から輸出される食品などについて、福島県など10都県産(注5)のものは輸入停止、それ以外については日本の政府機関による証明書を求めている。さらに、7月のALPS処理水放出に関する国際原子力機関(IAEA)の報告書公表を受け、水産品を中心とする日本からの輸入食品に対する税関での検査を強化している(2023年7月27日記事参照)。

なお、7月の日本からの生鮮の魚(HS0302)(注6)の輸入額(ドルベース)は前年同月比56.8%減となった。2023年は1月を除き2桁の伸びが続いていたが、急減速した(添付資料図参照)。

また、水産品の規制強化が日本酒など他の食品にも影響しているとの声があった。7月の日本酒を含む、その他の発酵酒(HS2206)の輸入額は5.4%減となったが、同品目は4月、5月を除きいずれも減少(注7)している。

(注1)中国はALPS処理水について「核汚染水」と表現している。

(注2)外交部ウェブサイトでは、2023年7月更新の「日本福島核汚染水処理問題外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」と題するページで、ALPS処理水の排出決定は「多くの太平洋沿岸国の重大な懸念と反対を引き起こした」とし、日本は国際社会の正当な懸念と専門家の様々な意見を正視し、周辺国と真摯(しんし)に意思疎通を行うとともに、厳しい国際的な監督を受け入れるべきだとしている。

(注3)中国共産党中央委員会の機関紙「人民日報」のネットメディア。

(注4)人民日報社傘下の国際ニュースメディア。

(注5)福島県、宮城県、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、長野県、新潟県。中国は、日本から輸出される全ての食品・飼料などについて、この10都県産のもの(新潟県産精米を除く)は、輸入停止措置を講じるとともに、日本の政府機関が発行する証明書を求めている。詳細は農林水産省ウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを参照。

(注6)生鮮のものおよび冷蔵したもの。HS0304の魚のフィレその他の魚肉を除く。

(注7)1月は38.1%減、2月は7.3%減、3月は6.5%減、6月は4.3%減。

(河野円洋)

(中国)

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