米国とメキシコ、メキシコの衣服工場での労働問題の改善策で合意

(米国、メキシコ)

ニューヨーク発

2023年08月10日

米国通商代表部(USTR)は8月9日、メキシコ中西部アグアスカリエンテス州に所在する衣服メーカー、インダストリアス・デル・インテリオール(INISA)の工場で発生していた労働権の侵害について、メキシコ政府と改善策で合意したと発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。

USTRはこの件について、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)で定めている「事業所特定の迅速な労働問題対応メカニズム(RRM)」に基づき、2023年6月にメキシコ政府に対して事実確認を要請していた(2023年6月13日記事参照)。本件は、米国がメキシコに対して発動したRRMの10件目かつ、自動車分野以外で初めての案件となる。メキシコ政府はこの要請を正式に受諾し、調査の結果、労働権の侵害があったと結論付けていた。今回、両国間で合意された改善策によると、メキシコ政府は、INISAが団結の自由および団体交渉権を尊重することなどを約した文書を労働者に配布し工場内にも掲示すること、職員の行動規範に関するガイドラインを発行し組合員を含めた全ての職員を研修することなどについて、2023年11月10日までに確実に実行することになっているとしている。USTRのキャサリン・タイ代表は声明で、「本日の発表は米国とメキシコの継続的な協力関係が、現に起きている労働権の侵害に対処し、今後の発生を予防するために具体的かつ効果的な対策につながっていることを示すものだ」と述べている。

RRMのルールによると、INISAが今後合意どおりに改善策を履行し、両国の政府が問題の解決に合意すれば、案件は終了する。一方、合意できない場合、提訴国の米国は15日前の書面通知をもって、INISAの同工場からの輸入に対し、USMCAに基づく特恵関税の適用停止などの制裁措置を発動することができる。ただし、被提訴国のメキシコは、通知を受理してから10日以内であれば、紛争解決のためのパネルの設置を要請することができ、米国はパネルの審議が終了するまで制裁の発動を控えなければならない。これまでRRMが発動され手続きが完了した案件は、メキシコ政府の協力もあり、全てパネル設置前に解決されている(添付資料参照)。一方、2023年以降、米国のメキシコに対するRRM発動が既に7件と急増している。メキシコはこうした動きに対して、RRMはあくまで最終手段として利用すべきとの問題意識を示し、案件によってはUSMCAの対象外だと反発している(2023年8月8日付地域・分析レポート参照)。

(磯部真一)

(米国、メキシコ)

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