米USTR、メキシコの衣服工場での労働権侵害の疑いでメキシコ政府に確認要請、自動車以外で初

(米国、メキシコ)

ニューヨーク発

2023年06月13日

米国通商代表部(USTR)は6月12日、メキシコ中西部アグアスカリエンテス州に所在する衣服メーカー、インダストリアス・デル・インテリオール(INISA)の工場(当該工場)で労働権侵害の疑いがあったとして、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)が定める「事業所特定の迅速な労働問題対応メカニズム(RRM)」に基づき、メキシコ政府に事実確認を要請したと発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。

RRMは、事業所単位で労働権侵害の有無を判定する手続きで、違反が認められれば、USMCAによる特恵措置の停止といった罰則が適用される。RRMの手続きは、USMCA加盟国政府が独自に発動できるが、労働組合などの第三者機関が加盟国政府に労働権侵害を提訴することも可能だ。今回は当該工場内の組合を含めてメキシコ内の労組から提訴を受けたとしている。当該工場で、雇用者側が提案した労働協約の改定を受諾するよう従業員に対して強制行為があったほか、組合活動への干渉などがあったとされている。RRMに基づく米国からメキシコへの事実確認要請は今回で10回目となり、前回までの9回は全て自動車・自動車部品工場での労働権侵害の疑いに基づくものとなっていた(2023年6月1日記事参照)。今回は自動車分野以外で初のRRM発動となる。キャサリン・タイUSTR代表は「今回の措置は、全ての産業分野の労働者が団結と団体交渉の権利を保障されるべきとする米国の意思を表したものだ」との声明を出している。

事実確認の要請を受けたメキシコ政府はUSMCAに基づき、調査を行うか否かを10日以内に返答しなければならず、調査を行う場合には45日以内に完了する必要がある。また、今回のUSTRによる確認要請をもって、米国は問題となっているメキシコの事業所からの製品輸入について、両国間で労働権侵害の解消に合意するまで、最終的な税関での精算を留保できる。実際、タイ代表は財務長官に対し、当該工場からの製品輸入にこの措置を適用するよう指示PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)した。USMCA締結国の米国、メキシコ、カナダは域内からの強制労働排除を重視しており、メキシコ政府もRRM手続きが開始されると積極的に協力し、比較的短期間で問題解決に至ることが通例となっている。ただ、2023年に入ってから今回で既に5件目の発動となっており、最近その頻度が高まっている(添付資料参照)。米国は農業向けバイオ技術に関する規制問題でも、メキシコに紛争解決協議の要請をしたばかりで、USMCAの紛争解決手続きの積極的な利用が目立っている(2023年6月5日記事参照)。

(磯部真一)

(米国、メキシコ)

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