米財務省、労働組合の経済効果に関する報告公表

(米国)

ニューヨーク発

2023年08月31日

米国財務省は8月28日、労働組合が米国経済に与えている影響に関する報告を公表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。同報告は2021年4月に大統領令に基づいてカマラ・ハリス副大統領を座長として設置された「労働者の組織化と権限強化に関するタスクフォース」(2021年4月28日記事参照)が発表した提言PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(注)を受けたもの。労働者の組織化と権限強化が中間層や経済全体にプラスの影響を与えることを理論的に説明するべく調査されたもので、中間層向けの政策に力を入れるバイデン政権の取り組みの一環として行われた。

報告では、労働組合の組織率と所得格差には負の相関があるとする。組織率は1950年代にピークを迎えた後に低下を続け、2022年には10%となった。これと反比例するように、所得階層上位1%の総所得が全体に占めるシェアは増加し、2022年には20%を占めるに至ったとする。また、賃金の伸びについて、世帯当たり個人所得の平均値の伸び率(年間1.1%増)と比べて、中間層の伸びが低い(年間0.6%増)としたほか、収入の不安定化や、休暇の減少、退職手当の減少、世代間の流動性の低下など、中間層が直面する厳しい状況を取り上げた。

報告では、こうした状況を労働組合が変え得ると主張している。

まず、賃金面では、「労働組合による賃金プレミアム」の存在を挙げ、組合員は非組合員よりも20%収入が多いことを指摘。また、労働組合の有無が賃金に与える因果効果に関するそのほかの分析からも、労働者の得られる賃金が10~15%程度異なることを示しており、労働組合の存在が賃金押し上げ効果を生んでいるとする。

次に労働環境について触れ、労働組合が存在することで、医療手当や退職手当などの福利厚生のほか、柔軟なスケジュール設定や職場の安全規制などの作業環境の改善が得られるとする。

さらに、差別の影響を受けにくい賃金設定慣行を促進することで、弱い立場にある労働者に利益をもたらすとし、実際に企業内の人種や男女間の格差解消、平等性の促進につながっているとする。

組合員以外への波及効果もあるとしている。労働組合のない企業も、労働組合のある企業と競合する中で、労働者を引き付けるために職場環境や雇用慣行を改善することがあると指摘。民間企業の組合加入率が1ポイント上昇するごとに、組合に加入していない企業の賃金も0.3ポイント上昇すると試算している。

金銭面以外にも、選挙や地域の集会への参加、慈善団体への寄付、ボランティア活動などを行う可能性が高くなるなど、社会資本の強化や市民参加を促進する効果を指摘した。

報告は、このように労働組合が過去50年で拡大した不平等を逆転させる可能性を秘めているとし、労働組合の組織率向上によって労働者が力を持つことは、中・低所得者層の経済的安定性を高め、経済の回復力を促進することにつながるなど、経済にとってプラスになると締めくくっている。

(注)バイデン政権は、中間層の成長や労働者を第一に考える経済の構築、民主主義の強化には労働者の組織化と権限強化が必要との考えの下、これを公約の1つに掲げている。この考えに基づいて設置されたタスクフォースでは、(1)連邦政府を雇用主のモデルに、(2)団体交渉の可視性向上、支援、意識向上、(3)既存法の効果的な執行、(4)労働者の組織化とエンパワーメントに関する政策を推進するための調査とデータの収集という4テーマについて、約70項目にわたる提言を行っている。(4)の中に、財務省に対して労働組合の組織率と中間層の安定や成長との関係について調査をするよう求める項目が盛り込まれている。

(加藤翔一)

(米国)

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