欧州委、持続可能な自然資源の利用と食料システムの強化に向けた政策パッケージを発表

(EU)

ブリュッセル発

2023年07月13日

欧州委員会は7月5日、欧州グリーン・ディールの一環として、EUの食料システムと農業経営を強化する主要な自然資源の持続可能な利用に関する政策パッケージを発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。具体的には「自然資源の持続可能な利用に関するコミュニケーション(政策文書)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)」と、(1)土壌モニタリング指令案外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(2)植物のための新ゲノム技術(NGT)に関する規則案外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(3)植物繁殖材料(PRM)および(4)森林繁殖材料(FRM)に関する規則案外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますの4つの法案、食品廃棄物削減の取り組み強化策外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますから構成される。4つの法案の主な内容は次のとおり。

(1)は、2050年までにEU全域の土壌健全化に向け、土壌モニタリングの枠組みを定める。加盟国は土壌管理方法を明確にし、汚染可能性がある場所を特定して人間の健康や環境に甚大なリスクを与えないよう対処する。EUの土壌サンプルデータや衛星データ、加盟国や民間のデータを集約し、農業事業者や土地管理者に提供する。データ活用は任意だが、土壌改良、水や肥料の最小限の使用、干ばつなど災害防止に役立ててもらうのが狙い。健全な土壌とそこで生産される食料の価値を高めるため、農家や土地管理者はカーボンファーミング(注)に対して報酬を得られるようにする。

(2)はNGTのうち、標的遺伝子に異変を起こす技術(ゲノム編集)や交配可能な同種・近縁種の遺伝子を導入する技術(シスジェネシス)で作られた植物、それらに由来する食品・飼料を対象とする。欧州委は加盟国の要請を受け、ここ20年で急速に研究開発が進んだNGTについて調査し、現行の遺伝子組換え作物(GMO)関連法令ではNGT植物の環境への影響やEU市場での流通に対応できないと判断。規則案は、上記NGT植物のEU市場への上市(市場投入)に関する手続きを定める。また、NGT植物を公的データベースに登録し、農家の透明性と選択の自由を確保する。欧州委はこれらの規則を通じて、持続可能な作物の研究開発や農業・バイオテクノロジー関連投資の促進を目指す。なお、上記NGT植物以外は引き続きGMO関連法令で規制される。

(3)と(4)は、植物の繁殖に使用する種子や挿し木などのPRMと、森林の造成や植林に使用する植物などのFRMの育種と流通について、現行指令を全て廃止し規則化する。(3)では、PRMの上市に必要な品種登録手続きの簡素化や、オーガニック(有機)農業に適したPRMの品種登録枠組みの導入により登録品種を増やす。農業事業者は害虫や干ばつなどに強い種子を選択することができ、安定的な生産が実現する。(4)では、FRMの親木の病害への耐性や適応可能な気候条件など持続可能性をより厳しく評価し、FRMの品質を担保。林業事業者に的確な情報を提供し、適切な土地を選び植林することを促し、森林の持続可能性の向上や安定的な林業生産活動を目指す。また加盟国に対し、山火事などで損害を受けた森林へのFRM供給について対応策の策定を義務付ける。

このほか政策パッケージでは、食品廃棄物削減の取り組み強化策が廃棄物枠組み指令の改正案として提案された(2023年7月13日記事参照)。

これらの法案は今後、EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会で審議される。

(注)土壌改善などにより、二酸化炭素(CO2)を土地に吸収させる農法。

(滝澤祥子)

(EU)

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