米NY市、小売業の雇用回復に遅れ、雇用者数は新型コロナ禍前と比べ11.1%減少

(米国)

ニューヨーク発

2023年06月16日

米国ニューヨーク(NY)市を拠点とする公共政策シンクタンク、センター・フォー・アン・アーバン・フューチャー(CUF)の報告書によると、新型コロナ禍により失われたNY市の雇用は回復傾向にあるものの、小売業の雇用は依然として新型コロナ禍前の水準を下回っているという。全米では、5月の雇用者数が33万9,000人の大幅増となる中(2023年6月5日記事参照)、NY市は回復が遅れている。

同報告書によると、NY市の民間部門の雇用者数は2023年2月時点で、2020年2月と比較して0.8%減にとどまり、新型コロナ禍前に近い水準まで回復した。一方、同期間の小売業の雇用者数は11.1%減となり、全米の平均(0.7%増)を大幅に下回った。さらに、小売業の雇用回復は、新型コロナ禍で大きな打撃を受けた他のサービス産業と比較しても遅れている。飲食業の雇用者数は5.7%減と、依然として新型コロナ禍前の水準を下回っているが、小売業の約2倍の速さで回復しているという。

地区別にみると、小売業の雇用者数は、NY市内の5つの行政区(注)の全てで完全には回復していない。中でも、マンハッタンの回復が最も遅れており、雇用者数は新型コロナ禍前と比べて20.4%減少している。CUFは、観光業の回復の遅れや、市内中心部のオフィスで働く労働者の急激な減少が大きな影響を与えたとしている。なお、セキュリティー会社キャッスル・システムズによると、6月7日までの週で、ニューヨーク都市園のオフィスビルの入居率は50.5%と、新型コロナ禍後初めて50%を突破したが、リモートワークの定着による経済損失額は、年間120億ドル超に上ると推定している(ブルームバーグ6月12日)。

報告書は、小売業における雇用回復の停滞について、オンラインショッピングの急速な普及や自動化を採用する小売業者の増加に加え、労働者のオフィス回帰の遅れ、NY市の急激な人口減少などの複合的な要因によるものだとしている。

NY市における小売業の雇用者数はそもそも、2015年以来減少傾向にあり、新型コロナ禍前から深刻な問題になっている。雇用者数は2003年2月~2015年2月まで32.2%で伸びていたが、2015年2月~2023年2月にかけて減少傾向が続き、この間に13.2%に相当する4万5,700人の雇用が失われた。

なお、CUFはNY市の小売業に従事する人種について、黒人、ヒスパニック、アジア系などが7割以上を占めており、小売業における雇用喪失が人種間の格差拡大につながり得ると指摘している。この雇用危機に対処するためには、市と州の政策立案者が、労働者のほかの産業分野への移行を支援する職業訓練プログラムに投資し、実店舗での買い物を促進する必要があると訴えている。

(注)マンハッタン、クイーンズ、ブロンクス、ブルックリン、スタテンアイランド。

(樫葉さくら)

(米国)

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