欧州委、水平一括適用免除に関する改正規則とガイドラインを採択

(EU)

ブリュッセル発

2023年06月08日

欧州委員会は6月1日、EU競争法における水平的一括適用免除の改正規則を採択した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。今回の改正は、研究開発協定と専門化協定に関する2つの一括適用免除規則と付属のガイドラインからなる。デジタル化やグリーン化を促進する上で研究開発などの水平協力の重要性が高まっている。一方で、2011年に施行された現行規則では、過去10年のこうした社会経済の変化に対応できていないと指摘されている。そこで、改正規則とガイドラインはこうした社会経済的な要請に応えつつ、内容をより明確にし、事業者による競争法への適合性評価を容易にする。

今回の改正方針は、2021年の競争政策に関する政策文書(2021年11月19日記事参照)で示されており、垂直的制限に関する一括適用免除の改正規則(2022年5月16日記事参照)は既に2022年6月から施行されている。

EU競争法は、競合関係にある事業者同士による取り決めについて、競争を阻害するものとして原則禁止している。ただし、研究開発、生産、購買、商品化、標準化、情報交換などの取り決め(水平的協力協定)に関しては、イノベーションの促進、ノウハウの共同利用、リスクの分散、コストの削減など、実質的な経済的便益をもたらす場合があることから、市場占有率のほか、特定の条件を満たす場合、競争制限を上回るプラス効果が推定されるとして、禁止規定の適用を免除している。

今回の改正規則での主な変更点は、一括適用免除規則の適用における市場占有率の計算の明確化や柔軟化などだ。事業者の前年の売り上げデータが市場での本来のポジションを反映していない場合に、過去3年間の売り上げデータを基にすることを明確にしたほか、市場占有率が一括適用免除を受けるための基準値を超えた場合に適用する猶予期間を簡略化し、2年間とした。専門化協定に関しては、2社以上で締結するあらゆる協定をカバーすべく、一括適用免除の射程を拡大した。研究開発協定に関しては、同協定に基づいて新技術開発で協力する事業者が現製品市場で競合しない場合でも、技術開発の段階で競争関係にある場合があることから、事案によっては一括適用免除の適用を認めないとした。これは、同協定にはイノベーションを促進するメリットがある一方で、例えば、新技術を開発する事業者が2社しかいない場合に、当該2社が同協定を締結することは、むしろイノベーションに向けた競争の阻害につながる可能性があるからだ。

また、ガイドラインには、持続可能性に関する章が新たに追加された。これは、EU競争法が持続可能性目標の達成に向けて競合者間で締結される持続可能性協定を阻害しないことを明確にするものだ。情報交換に関する章については、これまでの判例を反映させるために全面的に改定され、データ共有などに関する説明も追記された。なお、この章では、競合者間の機密情報の交換は常に競争を制限する重大な効果を持ち得ることから、セーフハーバー(特定の条件で行動する限り法令違反を問われない範囲)は設定されていない。

この改正規則は7月1日から施行される。ただし、2年間の移行期間が設けられており、期間中は改正規則の条件を満たさない場合でも、現行規則の条件を満たす限り、協力協定を禁止する規定の適用が免除される。

(吉沼啓介)

(EU)

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