米シンクタンクが北米半導体会議の結果と行動計画を発表、サプライチェーンの可視化を急ぐ

(米国、カナダ、メキシコ)

ニューヨーク発

2023年06月12日

米国シンクタンクのミルケン研究所は6月6日、米国、カナダ、メキシコの北米3カ国の産学官が5月に開催した「北米半導体会議(NASC)」での議論の結果と行動計画に関する報告書を発表PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)した。

NASCは、米国半導体産業協会(SIA)とアリゾナ州立大学が5月18~19日に主催した会議で、結果概要は直後に両者によって発表されていたが、具体的な結果と行動計画はミルケン研究所が総括することになっていた(2023年5月24日記事参照)。議論の焦点は、(1)サプライチェーンのマッピングと(2)労働力開発の2点だったとして、それぞれの結果と推奨される行動をまとめている。以下で、主な点を要約する。

(1)サプライチェーンのマッピング

議論の結果、北米域内の半導体サプライチェーンについて、包括的なマッピングを行う必要性が共有された。特に、官民でティア1、2以降のサプライヤーまで可視化し、多数の企業に製品を提供するサプライヤーを特定することが重要と指摘している。カナダ政府が、重要鉱物をはじめとする上流から下流まで北米域内の包括的なマップを試作した結果、域内では後工程に当たるパッケージング能力と、上流における化学素材の供給力の拡充が主要な課題と認識された。また、その改善のために、規制の調和や、製造能力、ロジスティクス、輸送インフラへの投資が必要である点で一致した。

推奨される行動としては、カナダ政府を中心として2023年6月中に、包括的なマップを完成させることが筆頭に挙げられた。そのための資金として、米国の「CHIPSおよび科学法(CHIPSプラス法)」で確保された5億ドルを活用すべきとした。また、米国が同法に基づき設立予定の国家半導体技術センター(NSTC、注1)を通じた域内の研究や、組み立て・試験・パッケージング(ATP)工程に関する標準の調整などを推進すべきとしている。ミルケン研究所が6月中に、域内でのサプライチェーン強化に関する報告書を発表するとしている。

(2)労働力開発

議論の結果、労働力開発が主要な課題との認識で一致し、域内の産学官で予見される労働力不足を埋めるための連携を推進する必要があると結論付けられた。労働力は大きく技能者とエンジニア(注2)に分かれ、前者については、産業界と地域コミュニティおよび大学の連携で人材供給のパイプラインを拡充していくべきとした。後者については、移民政策がカギになるとしている。また、技能者の拡充について、製造業に対するネガティブなイメージの改善の必要性も指摘された。

推奨される行動として、3カ国による域内の人材マップの作成が挙げられた。学生が科学・技術・工学・数学(STEM)を専攻するようインセンティブを与える方策を検討することも提案された。また、アリゾナ州立大学が域内の高等学術機関と連携して、人材供給力の拡充にコミットしていくとしている。さらにSIAが今夏に、米国の労働力対策に関する報告書を発表する予定だ。世界的に重要度が増している半導体産業で、北米3カ国がどれだけ実効性のある連携を進められるか、今後の動向に注目だ。

(注1)「CHIPSプラス法」に基づいて米国内での設立が予定されている官民コンソーシアムで、先端半導体の設計から商用化までの一連の流れを担うエコシステムを形成するための中核的機関となる(2023年5月9日記事参照)。

(注2)一般的に、技能者(technician)はマニュアルなどにより定められた経験的な実務能力が求められる者を指し、エンジニア(engineer)は高度な工学系の科学知識と応用能力を基に企画・開発・設計力が求められる者を指す。

(磯部真一)

(米国、カナダ、メキシコ)

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