北米3カ国の産学官が初の半導体会議を開催

(米国、カナダ、メキシコ)

ニューヨーク発

2023年05月24日

米国半導体産業協会(SIA)とアリゾナ州立大学は5月の第3週、米国、カナダ、メキシコの北米3カ国の産学官による「北米半導体会議(NASC)」を米国の首都ワシントンで開催した。

NASCは、1月にメキシコで開催された北米3カ国首脳会合(2023年1月16日記事参照)で設立が合意された枠組みで、今回が初の開催となる。3カ国による政策協調の下、民間投資を後押しして地域的な半導体サプライチェーンを強化することが目的だ。新型コロナウイルスの感染拡大を原因とする世界的な半導体不足がNASC設立の主な動機となっている。SIAのプレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによると、3カ国は以下のような強みを持っており、それらを連携させることでより強靭(きょうじん)なサプライチェーンを構築できると示唆している。

  • 米国:先端半導体の設計や自動設計用ソフトウエア、製造装置、研究開発全般。アナログ半導体の製造。
  • カナダ:ブリティッシュコロンビア州とオンタリオ州を中心とした研究開発のエコシステム。化合物半導体やメムス(MEMS)、先端パッケージングなどに特化した施設。重要鉱物資源の存在。
  • メキシコ:半導体の組み立て、試験を中心とする後工程。ソノラ州を中心とした発展しつつある電気自動車(EV)分野、およびそれらと連動した半導体エコシステム形成の意欲。

その上でSIAは、NASCが焦点を当てるべき分野として次の4点を指摘した。

  1. 労働力開発:3カ国の大学間連携を拡大して、労働者を訓練する必要がある。政府は産業界と協力して、研修や技術力向上の取り組みを支援すべき。特に、大規模な研究資源を擁する大学がより小規模なコミュニティ・カレッジや技術機関と連携して、半導体産業に特化したカリキュラムなどを策定することが重要。
  2. 研究開発:3カ国の大学間連携により、半導体関連のカリキュラムを最新の状態に維持し、米国の国立半導体技術センター(NSTC、注)と連携するなど、研究機関の間でのコンソーシアムを形成すべき。
  3. 相互に互恵的な政府支援策の調整:米国では既に「CHIPSおよび科学法(CHIPSプラス法」が投資を呼び込んでいるが(2022年12月15日記事参照)、それだけでは北米サプライチェーンの再構築はできない。メキシコは半導体製造の後工程、カナダは半導体設計と環境的に持続可能な重要鉱物の採掘・加工で役割を果たせるため、それぞれで支援策を導入することを推奨する。
  4. 重要鉱物と環境保護:3カ国はNASCを活用して、価格競争力のあるかたちで、重要鉱物のクリーンで持続可能な採掘と加工を追求すべき。

アリゾナ州立大学のプレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによると、会議の結果と今後の行動計画については米国シンクタンクのミルケン研究所が発表する予定だ。3カ国の強みを生かしたサプライチェーンの構築が進展していくか、今後の動きが注目される。

(注)「CHIPSプラス法」に基づいて米国内での設立が予定されている官民コンソーシアムで、先端半導体の設計から商用化までの一連の流れを担うエコシステムを形成するための中核的機関となる(2023年5月9日記事参照)。

(磯部真一)

(米国、カナダ、メキシコ)

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