ノースボルトの北ドイツ蓄電池工場プロジェクトに大きな進展

(ドイツ、スウェーデン、EU)

ミュンヘン発

2023年05月23日

ドイツ連邦経済・気候保護省と、ドイツ北部のシュレスビヒ・ホルシュタイン(SH)州、スウェーデンのリチウム電池メーカーのノースボルトは5月12日、同社が2022年3月に発表したリチウムイオンバッテリーの大規模生産工場プロジェクト(2022年3月22日記事参照)が重要な進展を遂げたと共同で発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。

工場建設地の2つの自治体は5月9日と11日に、建設に向けて許認可手続きを進めることをそれぞれ決定した。プロジェクトへの助成についても、既に決まっていた「欧州共通利益に適合する重要プロジェクト(IPCEI)」(注)に基づく助成(2021年2月4日記事参照)に加え、欧州委員会が2023年3月に採択した「暫定危機・移行枠組み(TCTF)」(2023年3月15日記事参照)でも助成する方向で調整することになった。工場建設の開始に向け、関係者一同は必要な手続きを2023年中に完了させることを目指す。

TCTFは、米国のインフレ削減法(IRA)により、温室効果ガス排出ネットゼロ実現に貢献する産業(ネットゼロ産業)が米国へ移転する恐れに対し、例外的に2025年末まで国家補助を可能とするもの。TCTFによる同プロジェクトへの助成は、欧州委員会の承認が必要だ。現地紙「ハンデルスブラット」(電子版5月12日)によると、今回のプロジェクトの総投資額は45億ユーロ。連邦経済・気候保護省は2022年5月、IPCEIの枠組みで連邦とSH州合わせ1億5,540万ユーロの助成を発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますしていた。さらに、TCTFで助成の増額を調整する。TCTFによる助成が認められれば、ドイツでのTCTFの初案件となる。

工場は、ハンブルクの北西約100キロに位置するSH州ハイデに建設される。工場では年間最大60ギガワット時(GWh)の蓄電池セルを生産、約3,000人を雇用する見込み。操業開始時期は、プロジェクト発表時に示した2025年から今回、2026年に1年延期された。

ダニエル・ギュンターSH州首相は今回の進展について「EUがTCTFを通じて、ノースボルトのハイデ工場建設に道筋をつけ、非常に短期間で米IRAへの回答を示したことは素晴らしい」とコメントした。また、ノースボルトのペーター・カールソン創業者兼最高経営責任者(CEO)は「連邦政府の関与を受け、ノースボルトはハイデ工場の建設について、次の段階に進むことを決めた」としている。

「ハンデルスブラット」によると、カールソンCEOは2023年初めに、「EUより米国での事業拡大を優先する状況にあるかもしれない」と発言。ノースボルトのハイデ工場建設の遅滞は、米IRAにより影響を受けたドイツでの象徴的なプロジェクトの1つに挙げられていた。

(注)EUでは、域内の競争条件をゆがめる恐れのある国家補助は原則として禁止されているが、欧州経済振興にかなうなどの条件を満たす場合、例外的に国家補助を認めるもの。

(高塚一)

(ドイツ、スウェーデン、EU)

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