カナダ、強制労働に関する法案可決、上場企業などへ関与防止措置などの報告を義務付け

(カナダ)

トロント発

2023年05月10日

カナダ下院は5月3日、「サプライチェーンにおける強制労働、児童労働との闘いに関する法律を制定し、関税率を改正する法案(S-211)」を可決外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。同法案は2021年に上院に提出され(2021年11月26日記事参照)、2022年4月に可決されていた。この度の下院での可決により、同法案は国王裁可を経て法律となり、2024年1月1日の発効が見込まれる。同法は、特定の政府機関や民間企業に対し、自社または自社のサプライチェーンで強制労働または児童労働が使用されるリスクを防止・低減するために取られた措置を報告する義務を課す。また、事業体に適用する検査制度を規定するとともに、事業体に一定の情報提供を求める権限を大臣に付与する。さらに、全部または一部が強制労働または児童労働によって製造または生産された物品の輸入を禁止すべく、関税定率表を改正する。

同法の対象となるのは、物品の生産、購入または流通を行う政府機関のほか、物品の生産、販売または流通を行う事業体、国外で生産された物品をカナダへ輸入する事業体、あるいはこうした事業体の経営権を有する事業体のうち、カナダで上場しているか、同法が規定する資本金や収益、従業員数などの諸条件に適合する場合だ。

対象事業体は2024年以降、同法で定めた事項を記載した前会計年度の年次報告書を毎年531日までに公共安全・緊急事態準備相に提出する必要がある。さらに、年次報告書は一般公開する必要があり、企業はウェブサイトの目立つ場所に掲載すること、連邦法人の場合は年次報告書の写しを年次財務諸表とともに株主に提供することも定められている。

ただ、同法の施行に専門家は難色を示している。人権擁護団体「企業の説明責任に関するカナダ・ネットワーク」の政策担当者、エミリー・ドワイヤー氏は「簡単に言えば、報告を義務付けるが被害阻止を義務付けない法律は、全政党支持を得て成立しやすいかもしれないが、意味がないとも言える」として、法案の審議会で警告していた(2022年11月22日「グローブ・アンド・メール」紙)。

こうした批判を受け、連邦政府は2023年3月の新年度予算案で、同法案とは別に、強制労働を使用して生産された商品の輸入禁止を強化する法律を2024年までに提出する意向であることを発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますしており、今後の動向が注目される。

(飯田洋子)

(カナダ)

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