カナダ上院で強制労働に関する法案が提出、税関は強制労働を理由に輸入製品を初めて押収

(カナダ、中国、マレーシア)

トロント発

2021年11月26日

カナダ上院議会で11月24日、「サプライチェーンにおける強制労働および児童労働との闘いに関する法律を制定し、関税率を改正する法案(S-211外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)」が提出された。法案を提出したのは独立上院グループに属するジュリー・ミビル=デシェーヌ議員で、8月15日の下院解散により上院第2回読会の審議途中で廃案となった「現代奴隷法を制定し、関税定率法を改正する法案(S-216)」を一部改定し再提出した。また、同日、中国の新疆ウイグル自治区で生産された物品の輸入を禁止する「新疆からの物品に対する関税率を改正する法案(S-204)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」も上院に提出された。

現地報道によると、カナダ国境サービス庁は11月3日までに、「関税定率法第136条第1項」に基づき、中国からの女性用および子供用衣料品をケベック州で押収した。関税定率法第136条第1項は、輸入禁止品目(関税分類番号9897.00.00)を定めており、カナダ・米国・メキシコ協定(CUSMA)の2020年7月1日の発効に合わせて、同項の対象品目に「強制労働によって全体的または部分的に採掘、製造、または生産された物品」が追加された(注)。同項に基づく強制労働を理由とした輸入品の押収は初とされる。

ミビル=デシェーヌ上院議員は、これら衣料品を輸入したカナダ企業や、中国の製造業者の詳細について、カナダ国境サービス庁が情報開示しておらず、「透明性の問題」があると指摘している(CBCニュース11月17日)。

また、公共サービス・調達省は11月10日、使い捨て手袋製造で世界2位のマレーシアのスーパーマックス・コーポレーションの製品を輸入しているスーパーマックス・ヘルスケア・カナダ(ケベック州)からの納品を保留していると発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。同省はスーパーマックス・ヘルスケア・カナダと調達契約を結んでおり、同社は、現在、スーパーマックス・コーポレーションが行っている強制労働の有無に関する監査の結果次第では、代替サプライヤーからの調達を含めた状況是正のためのあらゆる選択肢を検討するとしている。

公共サービス・調達省のスーパーマックス・ヘルスケア・カナダとの契約は、約2億カナダ・ドル(約182億円、Cドル、1Cドル=約91円)相当の個人防護具(PPE)(CBCニュース11月17日)。スーパーマックス・コーポレーションによると、今回保留対象となっているのは契約製品のみで、それ以外の手術用フェイスマスクや、他社製のニトリル手袋、ガウン、歯科用製品など、その他の製品の輸入は通常どおり行われているという(「ザ・スター」11月15日)。なお、スーパーマックス・コーポレーション製の使い捨て手袋は、米国では、米国税関・国境保護局(CBP)が「違反商品保留命令(WRO)」を出し、10月21日から輸入差し止め対象となっている(2021年10月22日記事参照)。

カナダの輸入業者は今後、自社のサプライチェーンを見直し、強制労働など人権侵害に関わるリスク評価を行うことがますます重要になるとみられる。

(注)企業活動と人権に関するカナダ政府・議会の施策などについては、2021年8月20日付地域・分析レポート参照

(グリーンバーグ綾子、江崎江里子)

(カナダ、中国、マレーシア)

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