欧州委、知的財産権に関する規則案を発表

(EU)

デュッセルドルフ発

2023年05月02日

欧州委員会は427日、企業、特に中小企業が発明を最大限に活用してEUの競争力と技術主権に貢献することを目的とする規則案を発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。61日から運用が開始される欧州単一特許制度(注)を補完するもので、主要分野は、(1標準必須特許(SEP)に関する規則案外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます、(2強制実施権に関する規則案外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます、(3補充的保護証明書(SPC)に関する規則案外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます3つとしている。

1)標準必須特許(SEP

SEPは、標準化団体(SDO)が採択した技術標準の実施に不可欠とされた技術を保護する特許。例えば、第5世代移動通信システム(5G)、Wi-Fi、ブルートゥース(Bluetooth)、NFC(近距離無線通信)などの標準に関連している。標準に準拠した製品を製造するためにはSEPの使用が必要なため、SEP保有者は公正、合理的かつ非差別的(FRAND)な条件でライセンスすることを約束することで、これらのSEPに関する技術へのアクセスを可能としてきた。しかし、長年にわたり、SEPのライセンスに関しては、透明性や予見可能性の欠如により、長引く紛争や訴訟が問題とされてきた。

SEPに関する規則案は、バランスの取れたシステムを構築し、透明性を向上し、紛争の減少、効率的な交渉のためのグローバルベンチマークを設定することを目的としている。

同規則案では、EU知的財産庁(EUIPO)の下へのコンピテンスセンターの設置(第3条)、SEPの登録(第4条、第20条)、サンプルチェックなどによる必須性判断(第28条、第29条)、累積ロイヤルティーの公表(第15条、第17条)、調停によるFRAND決定(第34条)などの規定を導入している。

2)強制実施権

特許の強制実施権の付与は、政府が特許権者の同意なしに特許発明の使用を許可するもの。製造業者との自主的なライセンス契約は、一般的に生産を増強するための好ましい手段だが、自主的な契約が利用できない、または適切でない場合、強制実施権の付与は、危機の際の最後の手段として、危機に関連する主要な製品や技術へのアクセスを提供するのに役立つことがある。

強制実施権に関する規則案は、危機の際にEUが危機関連製品にアクセスできるようにすることを目的として、知的財産権のEU強制実施権の付与に関する手続きと条件について定めるもの(第1条)。EUレベルで緊急モードまたは危機モードが発動された後にのみ、EUの強制実施権が付与される(第4条)。対象とする知的財産権は特許、実用新案、補充的保護証明書(第2条)。

3)補充的保護証明書(SPC

補充的保護証明書(SPC)は、規制当局によって認可されたヒトまたは動物用医薬品、または植物保護製品の特許期間を最大5年延長する知的財産権。イノベーションを奨励し、これらの分野の成長と雇用を促進することを目的とする。

SPCに関する規則案は、単一効特許を補完する単一SPCを導入するものだ。また、同規則案により、EUIPOが各加盟国の知的財産庁と連携して実施する集中審査制度も導入し、1つの出願に対して1回の審査を行い、認められれば、出願で指定された複数の加盟国に対して国内SPCが付与されることになる。

これらの規則案の採択・発効に向けて、EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会で審議される。詳細については、欧州知的財産ニュースを参照。

(注)EUでは、加盟国の当局が発行する国別の特許のほか、欧州特許庁(EPOEuropean Patent Office)が発行する「欧州特許」による保護を求めることができる。ただ、現行の欧州特許は各国の特許を束ねたもので、実際の法的拘束力を持たせるには、依然として各国レベルでの有効化(バリデーション:validation)手続きを経る必要がある。EUは手続きの簡素化とコスト削減に向け、「欧州単一効特許(European Patent with Unitary Effect)」制度の確立を進めている。

(鹿戸俊介、中村勇介)

(EU)

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