連邦政府、2022年水素産業の現状を報告

(オーストラリア)

シドニー発

2023年05月15日

オーストラリア連邦政府の気候変動・エネルギー省は413日、同国の水素産業の現状を示す報告書「State of Hydrogen 2022PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)」を発表した。水素関連プロジェクトの進捗状況の評価や、他国の取り組みとの比較、今後に向けた道筋を示している。連邦政府は「国家水素戦略(2019年)」の策定以降、その進捗を評価するため、同様の報告書を202112月に初めて公表した(2021年12月13日記事参照)。今回はその後の進捗をまとめた2回目の報告となる。

報告書によると、国内には既に進行中の水素関連プロジェクト(公表済み)が100件以上存在し、それらの投資額の合計は2,300億~3,000億オーストラリア・ドル(約209,300億円~約273,000億円、豪ドル、1豪ドル=約91円)になる可能性があるとした。また、世界の公表済みのクリーン水素プロジェクト(注)のうち、約40%がオーストラリアにあるとした。

一方、公表されている大型の水素開発プロジェクトのうち、実際に最終投資決定に至った案件は、OECD諸国と比べると、オーストラリアはまだ少ない。同国が水素開発で国際競争に勝ち抜くには、優先順位の高いパイロットプロジェクトから着実に事業を進めることや、水素の製造・消費・輸出拠点を1カ所に集約する「水素ハブ」を設立すること、関連するサプライチェーンの整備状況を評価することが不可欠だとした。

詳細な進捗評価は、国家水素戦略に記載された13項目(例:事業規模、価格競争力)について実施された。その結果、実際の進捗が見られるとして評価が高かったものが2項目挙げられた。

1つ目は「化学用原料・燃料としての利用」だった。具体的には、化石燃料を使用した水素・アンモニア製造に代わり、グリーン水素を原料とした「グリーンアンモニア」の製造で進捗が見られた。これらは、肥料用や鉱山向け火薬材などに利用され、関連分野の計画プロジェクト数は2022年の1年間で倍増した。背景には、ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー問題の影響で、グリーンアンモニアの価格競争力がグレーアンモニア(化石燃料を利用)に対して優位となったこともある。

2つ目は、発電用水素の輸出だった。具体的には、2022年に水素・アンモニアの輸送が実証されたことが取り上げられた。水素輸出の実証では、日系企業も関わって液化水素を運搬する水素エネルギーサプライチェーン(HESC)プロジェクト(2022年1月24日記事参照)も行われた。同報告書では、今後も海外で発電用水素の利用増加が見込まれるとした上で、化学用原料・燃料の利用が2025年、発電用水素の輸出は2025年、2030年に向けて急速に進むと予測した。

(注)化石燃料を原料とするが、生産過程で発生する二酸化炭素(CO2)を回収・有効利用・貯留(CCUS)などで有効利用、または地中に貯留するブルー水素、再生可能エネルギー由来の電力を利用、水を電気分解して生成され、製造過程でCO2を排出しないグリーン水素をまとめてクリーン水素と分類。

(青島春枝)

(オーストラリア)

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