米環境保護庁、発電所に対する温室効果ガス削減規制強化案を発表、CO2回収装置設置など義務付け

(米国)

ニューヨーク発

2023年05月12日

米国環境保護庁(EPA)は5月11日、発電所に対する温室効果ガス(GHG)の規制強化案を発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。

2021年に、米国では電力部門からのGHG排出は全体の25%を占める。輸送部門の28%に続く排出量だが、電気自動車(EV)の普及などで電力需要が今後増大するだろう状況では、電力部門自体のGHG排出削減が非常にますます重要になっている。バイデン政権は2035年までに電力部門の脱炭素化を目標に掲げており(2023年3月17日記事参照)、EPAによれば、電力部門の二酸化炭素(CO2)排出量は2005年に比べすでに36%削減された。今回の規制案はこの動きをさらに加速させるものとなる。

規制案では、ガスや石炭などによる発電に対する排出規制やガイドラインを強化・確立するとしており、EPAは炭素汚染基準の提案にあたり、CO2回収・貯留(CCS)やGHG排出量の低い水素の活用、高効率の発電技術の導入を検討してきた。具体的には、新規・既存のガス火力発電所は、2035年までにCO2排出量の90%を回収する装置を導入するか、水素を2032年までに30%、2038年までに96%混焼することを求める。既存の石炭火力発電については、2035年から、発電所を2040年までに廃止する場合は天然ガスを2030年までに40%混焼させる(2035年までに廃止の場合は天然ガス混焼の義務なし)、2040年以降も稼働させるなら2030年までにCO2排出量の90%を回収する装置の導入が必要としている。EPAはこの規制案により、最大で2042年までに米国の乗用車の約半数の1億3,700万台の年間排出量に相当する6億1,700万トンのCO2が削減され、気候や健康に対しての経済的利益は最大850億ドルに達するとしている。規制案については、官報掲載後60日間のパブリックコメントが募集される。報道によれば、最終的な規則策定には1年程度の期間を要すると見込まれている(ロイター5月11日)。

ただし、厳しい規制強化に対しては、関係業界のみならず、与党の民主党からも反対の意見がすでに飛び出している。化石燃料関連産業が盛んなウェストバージニア州選出の同党のジョー・マンチン上院議員は、規制案発表の前日、規制強化を受けてEPA関係者の人事候補案に今後全て反対するとの声明を発表した。2022年6月には、最高裁判所は、連邦政府には発電所に対するGHG排出規制を行う包括的権限はないとの判断を下している(2022年7月1日記事参照)。今回は厳しい規制強化となるだけに、規制案の最終取りまとめまでには、関係業界や関係議員、司法も巻き込んでの紆余(うよ)曲折が今後予想されそうだ。

(宮野慶太)

(米国)

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