日韓首脳のシャトル外交が再開、経済界からも強い期待

(韓国、日本)

ソウル発

2023年05月10日

岸田文雄首相は5月7日~8日に韓国を訪問し、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領と首脳会談を行った。前回(3月16日、東京)の合意(2023年3月17日記事参照)に基づき、両国トップによるシャトル外交が12年ぶりに再開された。

7日の首脳会談では、日韓安全保障対話の再開や経済安全保障協議の開催と多岐にわたる分野で対話と協力が動き出し、輸出管理分野でも半導体などで一層の発展があったことを両首脳で歓迎した。また、ALPS処理水(注)に関し、韓国国内の理解を深める観点から、東京電力福島第一原発へ韓国の専門家視察団を5月中に派遣することで合意した。5月19日から開催されるG7広島サミットの機会を含め、引き続きシャトル外交を通じて信頼関係を深め、日韓関係を一層発展させていくことを確認した。

韓国大統領府によると、会談後の共同記者会見で、尹大統領は「両首脳は韓日関係の改善が両国の国民に大きな利益となることを確認し、今後もより高い次元で両国関係を発展させていくことで合意した」と述べた。ほかにも「韓国の半導体メーカーと日本の優秀な素材・部品メーカーが強固な半導体サプライチェーンをともに構築できるように、連携を強めることで意見が一致した」などと話した。

今回の首脳会談を受け、「中央日報」(5月8日)は「G7サミット期間中に両首脳が広島で韓国人原爆犠牲者の慰霊碑を参拝することを決め、過去の歴史問題を解決しようとする試みはシャトル外交再開の成果といえる。双方が徐々に共通認識を拡大し、共通点を増やしていくことが、第一歩を踏み出したばかりの関係改善を加速する現実的な方法かもしれない」と主張した。

また、「ハンギョレ新聞」(5月8日)は「今回の韓日首脳会談は12年ぶりに日本の首相が訪韓し、シャトル外交の再開を対外的に知らしめた場となった。両国の首脳は『未来』や経済・安保協力を掲げたが、歴史問題を曖昧にしてはならない。良好な韓日関係を構築するためには、双方の歴史認識の明確化から始まる」と述べた。

翌8日、岸田首相は金乘準(キム・ビョンジュン)全国経済人連合会会長職務代行ら7人の経済関係者との懇談を行った。首相は同会が日韓産業間の協力を絶え間なく前進させてきたことを承知していると伝えた。韓国経済関係者はサプライチェーン強靭(きょうじん)化や先端分野での産業協力の推進など、今後のさらなる日韓経済関係の発展に強い期待を表明した。

(注)東京電力福島第一原子力発電所内にある放射性物質を含む水について、トリチウム以外の放射性物質を安全基準を満たすまで浄化した水のこと。ALPSとは「Advanced Liquid Processing System(多核種除去設備)」を指す。

(橋爪直輝)

(韓国、日本)

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