短期から長期まで滞在可能なシンガポール発コリビングのlyf、福岡・銀座と展開拡大

(シンガポール、日本)

アジア大洋州課

2023年04月18日

日本では職住一体型の「コリビング」という暮らし(2020年2月26地域・分析レポート参照)はまだ一般的に普及していない。しかし近年、シンガポール発のコリビング事業者がアジア太平洋地域を中心に相次いで進出し、日本でも事業を拡大している。シンガポールの大手サービスアパート事業者「アスコット(ASCOTT)」は20216月、福岡市にコリビングホテル「lyf Tenjin Fukuoka(ライフ天神福岡)」を開業した。ジェトロは、新型コロナウイルス感染拡大前後を通じた日本での事業展開戦略について、同ホテルの支配人、井上絵梨氏に聞いた(インタビュー日:2023125日)。

写真 ライフ天神福岡の共用スペースと客室(アスコット提供)

ライフ天神福岡の共用スペースと客室(アスコット提供)

(問)日本で最初の進出先として、福岡を選んだのはなぜか。

(答)さまざまな要因があるが、福岡市が海外のスタートアップ(SU)の誘致・支援に力を入れていることも進出のきっかけだ。福岡では、アジア発着の国際線航空便が多い。従って、福岡を訪れる海外の人はアジア圏の人が多い。当社が行うコミュニティーイベント(ホテル内共用スペースで行う滞在者間や地域住民との交流を目的としたイベント)には現時点で日本人の参加が多いが、今後、アジア圏を中心とした海外の方々のイベントへの誘致も視野に入れており、交通の玄関口となる福岡に注目した。

(問)2023年末には福岡に次いで「lyf Ginza Tokyo(ライフ銀座東京)」をオープンする予定だが、今後の展開方針は。

(答)今後も物件は拡大する方向だが、基本的には、進出先の都市のローカル性を大事にするという考え方で統一している。そういった意味では、銀座は(福岡よりも)さらに国際的な集まりになると考える。今後も当社が行うコミュニティーイベントは(ホテルのある)都市の地理性に合わせたテーマで開催する予定だ。

(問)lyfが考えるコリビングの概念は。

(答)日本ではあまり浸透していないが、「働く」と「暮らす」が融合する場所と定義づけ、さらに、遊びの要素を取り入れている。プライベートと仕事の境目が少なくなると考えている。遊びに来る人(旅行者)と暮らす人の間に交流を生む場が当社の提供するコリビングホテルだ。

(問)シェアハウスとの違いは。また、他のホテルやコリビング事業者とどのように差別化するか。

(答)シェアハウスではプライベートな空間を犠牲にする必要がある。コリビングは共用スペースでつながりの場を作りながらも、個人の空間を保つことができ、空間をシェアし過ぎない。コリビングについては、今のところ日本に海外の事業者の進出はあまりない。日本に進出しているシンガポール発のハムレット(Hmlet)社は長期滞在をターゲットとしており、どちらかといえば住宅に近い。当社はホテル業の営業許可を取得しているため、1日の宿泊から長期滞在まで利用者の希望に応じて滞在可能だ。

(問)どんなコミュニティーイベントを開催しているか。

(答)共用スペースでつながりの場を作るイベントを開催する。福岡に来る人(旅行者)と住む人の間に交流を生む。新型コロナウイルス禍でなかなか人を集めるイベントを行えない状況ではあったが、参加人数を制限しながらイベントを開催するなど工夫した。感染規制が緩和されるにつれ、現在では50人規模のイベントも行うことができるようになり、交流の機会が増えていると感じる。

(問)利用者層は。若い人が多いか。

(答)開業前は若い人、中でもノマドワーカーなどパソコンとインターネット環境があれば場所を選ばず働ける人をターゲットとして考えていた。実際は、利用者の仕事や当ホテルを利用する心理(ネットワーキングを求める)は考えたどおりだったが、20~70代まで幅広い年齢層の利用者がいる。新型コロナウイルス関連の規制が緩和されるにつれ、宿泊者は増えている。水際規制の緩和に伴い、直近3カ月は外国人の利用も多いが、現状では日本人の利用が多い。

(糸川更恵)

(シンガポール、日本)

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