米社会保障年金、高齢化進展などで2034年には積立金枯渇の見通し、前年見通しより1年早まる

(米国)

ニューヨーク発

2023年04月05日

米国社会保障庁の社会保障評議会は3月31日、社会保障年金の現状と見通しに関する年次報告書を公表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますし、社会保障年金の積立金が現状では2034年に枯渇するとの見通しを示した。2022年の年次報告書では2035年に枯渇するとの見通しだったが(2022年6月14日記事参照)、労働生産性の低下や高インフレなどが加わったことにより、前年より1年早まる見通しとなった。

米国の年金制度は、連邦政府が管理する被用者や自営業者向けの基礎年金部分相当の社会保障年金(OASDI:Old-Age Survivors and Disability Insurance)と、各企業が管理する企業年金や教職員、警察など各組合が管理する公務員年金などの2階部分で主に構成される。基礎年金部分のOASDIは、現役世代が納める保険料を財源に高齢者に対する年金給付を行う賦課方式・確定給付で、保険料は被用者および雇用主が支払う給与税(税率12.4%)で、両者で6.2%ずつの折半負担となっている。また、給付金が一定水準を超えた場合に受給者自身が支払う連邦所得税や、収入が支給を上回る際に積み立てられる積立金の運用収入も収入源となっている。

報告書では、現状のままだとOASDIのうち老齢・遺族年金の積立金は2033年までは予定給付金額の100%を支払えるが、この時点で同年金部分の積立金は枯渇し、2034年からは予定給付金額の77%しか支払えないという。OASDIのうち残りの障害年金は予測期間最終年の2097年まで枯渇することはないが、老齢・遺族年金を合わせたOASDI全体として考えると、2034年に積立金が枯渇することになるとしている。2035年からは現在の保険料収入のみでは、OASDI全体では予定給付額の8割しか支払いしかできないとしている。社会保障評議会は報告書の中で、年金の長期的資金不足を解消するための行動を求めているが、バイデン政権は3月に発表した2024年度予算案では、社会保障については削減しない方針だ。

2022年のOASDIの受給者数は約6,600万人で、2000年から約1.45倍に増加したが、保険料を納付する雇用者(非農業部門)は同年に約1億5,400万人で、同1.16倍にとどまる。支出拡大に対して収入増加は相対的に小さくなっており、年金財政は安定しない状況が続く。国勢調査局によると、2017年時点で55歳から66歳の米国人の49%は退職後のための個人的な貯蓄が全くないと答えている。新型コロナ禍やそれに続く高インフレを経て、米国人の退職後に備えた貯蓄状況はより一層厳しくなっている可能性があり、退職後の収入を一定程度賄う年金の財政安定化が急がれる状況だ。

(宮野慶太)

(米国)

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