米社会保障年金、高齢化により2035年には積立金枯渇の見通し

(米国)

ニューヨーク発

2022年06月14日

米国社会保障庁の社会保障評議会は6月2日、社会保障年金の現状および見通しに関する年次報告書を公表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますし、社会保障年金の積立金が現状では2035年に枯渇するとの見通しを示した。景気回復で2021年より1年後ろ倒しとなったが、高齢化により支出が収入を上回る状況が続き、引き続き厳しい年金財政が見込まれている。

国の年金制度は、連邦政府が管理する被用者や自営業者向けの基礎年金部分相当の社会保障年金(OASDI:Old-Age Survivors and Disability Insurance)と、各企業が管理する企業年金や教職員、警察など各組合が管理する公務員年金などの2階部分で主に構成される。基礎年金部分のOASDIは、現役世代が納める保険料を財源に高齢者に対する年金給付を行う賦課方式・確定給付で、保険料は被用者および雇用主が支払う給与税(税率12.4%)で、両者で6.2%ずつの折半負担となっている。また、給付金が一定水準を超えた場合に受給者自身が支払う連邦所得税や、歳入が歳出を上回った際に積み立てられる積立金の運用収入も収入源となっている。

報告書では、現状のままだとOASDIのうち老齢および遺族年金の積立金は2034年までに枯渇、残りの障害年金は予測期間内(今後75年)で枯渇することはないが、OASDI全体としてみると、2035年までに積立金が枯渇すると予測している。経済回復が2020年の予測よりも早く、その結果として給与税からの保険料収入などが増加したため、枯渇の予測時期は2021年より1年後ろ倒しとなった。なお、積立金が枯渇した場合、現在の保険料収入のみでは予定給付金の8割しか支払いしかできないとしており、報告書では議会に対し保険料引き上げや給付削減など早期の対策を求めている。

2021年のOSADIの受給者数は約6,520万人で、2000年比4割増加した一方、主な保険料納付者である非農業部門雇用者数は約1億4,600万人(2021年)で、1割の増加にとどまる。1983年には支給開始年齢を67歳に段階的に引き上げるなどの改革も行われたが、高齢化と出生率の低下により労働者の増加率は相対的に伸び悩んでおり(2022年5月25日記事参照)、年金財政は安定しない状況が続く。クレジットカード会社のキャピタルワンが実施した調査によると、退職にするための十分な資金がないと回答した者の割合は68%に上っており、米国でも日本と同様に、中間所得層の多くは将来不安を感じているのが現状のようだ。

(宮野慶太)

(米国)

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